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「そうだね……僕、何度も何度も、同じことでも。休みの日、ひとりでこうやって調べてノートに書くの、楽しいのかもしれない」
『なんでも一発で覚えられちゃう人なら、そういう楽しみ方も出来ないじゃない』
「うん」
『本当に好きなの? って誰かに疑われたら、そのノート、はいどうぞって見せてあげたらいいのよ』
僕自身が覚えてなくても、僕の書いたノートからその人が、興味ある個所を見つけてくれたら。さすがに僕だって自分の書いたものを読みながらならそのことを思い出して話せるはずだ。うん、楽しそう。とはいえ、この前の人とまた会って話したいかっていうとそれは別問題だから、また別の人との機会にね。
僕に必要なのは僕だけのクローバーのノートで、魔法のノートは必要ない。お互いに、鏡を介してノートを返し合った。
「ありがと。あなたのおかげで悩みがひとつ解決したみたい」
『どういたしまして~。みくは今日、これからどうするの?』
「せっかくお休みだし、曇り空だし。近くを散歩して紫陽花探しでもしてみようかなぁ」
紫陽花っていうのは、曇り空の方が綺麗に見えるらしい。こういう単発のネタみたいな情報はちゃんと覚えていられるんだけどなぁ。
『一緒に見に行けなくて、残念だわ。楽しんできてね』
以前、鏡を持って一緒に出掛けたら同じ景色が見られるのか訊ねてみたことがある。その時は濁して教えてくれなかったけど、つまりそうやって一緒に出掛ける気はないってことなのかもしれない。
一緒に出掛けられないし、顔を見られないし、手も繋げない。僕はあなたのことを何も知らない。
それでも彼女は、僕だけの、「一等の友達」だってことだけは、確かな真実なんだ。
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