僕は忘れ者、あなたは鏡の魔女

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 僕の愛用しているのは書きやすさ重視のA5サイズリングノートだ。ちょっと子供っぽいかもだけど、子供の頃にたまたま選んだ最初の一冊が四葉のクローバーの表紙だったから、なんとなくいつもクローバー柄のノートを買い続けている。  ハードカバーのノートって、学校の教科書みたいにページの境目をぎゅうぎゅうに押してようやく開きっぱなしにしないと書けないイメージで、僕はあんまり興味を引かれないなぁ。 『あら、ハードカバーだと書きにくいなんて偏見よ。最近は水平に開きっぱなしに出来る種類だって売ってるもの』 「そうなんだ……」  とはいえ、僕の限られたお小遣いじゃあ、リングノートより価格帯の高そうなハードカバーなんてとても手が出ないけどね。 『そうやってす~ぐ余計なことを考えるから、とっ散らかって必要なことも覚えられないのかしら』  呆れた声で、今度は向こうが溜息をついている。ごもっとも。そろそろ話を戻そっかな。 「それで、ノートを貸してくれるって? さっきも言ったけど、僕にはあなたと同じようには出来ないと思うよ?」 『そのノートにはワタシの魔法をかけてあるから。思い出したいなぁ~、って思いながら、今度何か書いてみて』 「ふぅ~ん……よくわかんないけど、試してみる。ありがと」 『代わりに、みくが書いたノートも一冊、ワタシに貸してくれない?』 「いいけど、誰かに見せる前提で書いてないし、ただのメモみたいなものだし。見たって面白くないんじゃない?」 『いいのいいの。単なる好奇心で、面白さなんて求めてないもの』  彼女はボクのこと何でも見通していて、今更隠し事しても仕方ないし。そもそもノートに書いてあるのはメモ書きの集合体であって日記じゃない。学校の板書したノートを教師や友達に見せるのと大差ないから、貸し出すのに抵抗感はない。  最後に書き終わった一冊を鏡に近付けると、そこに吸い込まれるように消えていった。
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