僕は忘れ者、あなたは鏡の魔女

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 翌日、日曜日。梅雨時だからなのか、今日も冴えない空模様。雨こそ降っていないけど灰色じみた空で、いつ降り出してもおかしくない。けれど、朝食をいただきながら見た天気予報では一応、降水はないことになっている。 『おはよー、みく! ワタシのノート試した? どうだった?』  部屋に戻ると、待ち構えていたようなタイミングで彼女が声をかけてくる。 「あなたの言っていた通り、ちゃんと思い出せたんだけど……ごめんね。なんとなく、思い出せて嬉しいって感覚になれなくて」 『そうかもねー。だって、あなたに向いてないことをわざわざ、魔法でさせてるようなものだもん』  あ、やっぱり。彼女はいつでも、僕のことはお見通し。こうなることがわかっていてあえて貸してくれたんだ。 『手が勝手に動いたみたいでしっくりしなかったんじゃない?』 「たぶん、そう。操られて勝手に動いたみたいな感じでさ」 『ワタシもあなたのノート、読ませてもらったけどね。忘れたくない! って必死だから、かなーり詳細に書いてるよね。ノートのメモ書きなのに、ちゃんとした読み物や資料集みたいで、読んでてけっこう面白かったよ』 「そ、そお? なんだか照れちゃうね」 『だから、みくはね。きっと、書くことそのものも割と楽しんでやってるんじゃないかなってワタシは思うのよ』 「う~ん……」  僕は、ひとりで机に向かってる時間が一番好きだ。それで何をやっているかというと、忘れたくないことをノートに書いたり。過去に書いたノートを読み返したり。お気に入りの図鑑を眺めて、覚えておきたいなぁって思うことがあったらそれも書き写したり。まぁ、結局覚えられてないわけですが。 『そういえば、ノートに書いてあるのって星のことだけじゃなかったわね』 「確か、今そっちにあるノートには、石について調べた時のメモが多いかも。昔、川で拾った不思議な石があってね。名前を知りたくてずっと、図鑑で調べているんだけど」  僕の机に飾っている、手のひらサイズの小さな洞窟みたいな石。たぶんあれは、元はこの倍の大きさの石だったのが、半分に割れたんだと思う。その中に空洞があって、黒く光る水晶みたいな石が隠れていたんだ。  僕の知り合いには石に詳しい人もいなくて相談も出来ないし、売り物でもない石をお店に持って行って鑑定してもらうなんて迷惑だろうから、自分で調べるしかないと思ってそうしているんだけど……案の定というか、こんなにたくさんの石について調べて、何度も書いているっていうのに、覚えている知識は漠然としている。おぼろげ~に石の名前を覚えているけど、それぞれの特徴や色などは覚えきれていない。  でも……。
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