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 ほとんど、衝動だった。  気がついたときには旭の顔を両手で引き寄せ、その唇へ口づけていた。  絶対に触れてはいけない。ずっと、そう戒めていた場所の柔らかな感触に、想いは際限なく膨れ上がった。自分ひとりでは到底抱えておけない強烈な感情が身体を支配して、収まるところのない情動が次々にあふれ出る。その情動の行き先を求めるように、一度離した唇を、もう一度、重ね合わせた。  胸の底で静かに燃ゆるばかりだった炎が、一気に酸素を吹き込まれたみたいに猛火となって、俺の身体中を焼き尽くしていく。  自分の中に、こんなに強い感情があるなんて、知らなかった。 「……あきら」  旭。旭。  顔を埋めるようにして、白い首筋にそっと唇を当てる。 「すきだよ」  そのまま、ぎゅっと抱きしめた。  あきら。 「……好きだ。……旭、ほんとに……本当に、好きだよ」  行き場を失った想いを、熱に浮かされたように何度も繰り返す。その熱が一瞬で冷めたのは、強く、旭に身体を離されたからだった。 「旭? どうし……」  俯けている顔を覗き込み、呼吸が止まる。  旭の顔には――ひどく深刻な表情が貼りついていた。  いつもみたいに照れて固まっているわけじゃない。口を塞ぐようにしてしたはじめてのキスのときとも、まったく違っていた。血の気の引いた肌は色をなくし、周りの光を集めているみたいにいつだってきらきらしている瞳は、暗く不安定に揺れている。例えるなら、――深く、傷ついたような顔。 「旭。ごめん、俺」 「………………むりだ」  突っ張って俺の二の腕を掴む手に、きゅっと力がこもる。 「……おれ、もう……」  空気がかすかな音をもって揺れたくらいの声は、けれどしっかりと深い重みを持って、俺の胸にまっすぐ届いた。  むりだ。……おれ、もう――たえられない。  旭の声は、たしかに、そう言った。
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