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 今日一日、勝手に避けていたくせに、その顔を見た途端、胸の底あたりが炙られたみたいに熱くなる。旭だ、と、身体中の血液がさざめく。  笑みを浮かべたり、うつむいたり。万華鏡を回すみたいに柔らかく表情を変える旭を、ただ、ガラス越しに見つめた。ふたりがなにを話しているのかは聞こえない。でも、悪い話でないだろうことは、ふたりの様子を見ているだけで明らかだった。  こんなもの、見ていたってなんの得もない。見つかると困るのだから、さっさと立ち去るべきだ。わかっていても、俺の足はそこから動こうとしなかった。他人に笑いかけるところなんて見たくなかったはずなのに。もう俺に向けてはくれないかもしれない表情なのかと思うと、目を逸らすこともできない。  この距離が埋まることは、もう二度とないのかもしれない。  ついこの前までは誰よりも近くにあったすべてが、今はもう、幻みたいに思えた。  ……あきら。  無意識に心のなかで呼びかけた――そのとき。 「え!?」  旭のひっくり返ったような声が、まっすぐドアを貫いて耳に刺さった。  美倉さんを向いて勢いよく顔を上げたポーズのまま、時間が停まったみたいに固まる。両目をまん丸に見開いた旭の顔は、夕日の射す中でもわかるくらいに赤かった。  肌という肌を朱に染め上げた姿で、ようやく、ギギギとぎこちなく顔をうつむけたかと思うと、襟足のあたりへ回した手をぎゅっと身体に寄せ、まるで首を引っ込めた亀みたいに縮こまる。  照れている、なんて形容では到底足りない。それほどに動揺しながらも美倉さんに向き直った旭は、おずおずと、けれどしっかりと、うなずいた。
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