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――ああ、これは。  どすん、と。胸を殴られたような衝撃が身体を襲う。次の瞬間には、五感の機能すべてが身体から切り離されたみたいな錯覚を覚えた。  視界が暗くなり、身体は脱力しきって、ぴくりとも動かない。  耳は鼓膜が膨張したように、なんの音も拾わず、息の仕方すらもわからない。  それなのに、俺の身体はいつのまにか、その場から走り出していた。頭が回らなくて、なぜそうしているのかもわからない。  右足が廊下を蹴り、左足が廊下を踏む。単調な動作が入れ替わりながら繰り返される中で、急速に五感が戻ってくる。  痛い。どこが痛いのかわからない。けど、とにかく痛い。  目の裏に熱が溜まり、胸の奥が焼き尽くされる。心臓から下、身体の内側すべてがどろどろのタールに覆われていく。それなのに、胸どころか、胴体全部を消し飛ばされたみたいに、空虚だった。  旭は、さっき旭は、うなずいた。  美倉さんにかけられた言葉に、見たこともないほど赤面して。  それがどういう場面かなんて、誰だってわかる。  全部、全部無意味だった。立てたつもりの予測も、決めたつもりの覚悟も、現実の前ではあまりに無意味で、無力だ。そんなこといまさら悟ったところで、なんの役にも立ちはしない。  いや、結局、覚悟なんて口だけだったのだ。そんなもの、はじめから、かけらもできていなかった。
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