127人が本棚に入れています
本棚に追加
「……草介?」
「おい、大丈夫か」続く声が近くなる。すぐそばにかがみ込んでくる気配がした。顔を上げずにいる俺を窺うように、何度も名前を繰り返される。
心配そうな声が嫌だった。『ごめん』なんてメッセージを寄越したきり避けていたようなやつが相手だというのに、こんなふうに、お構いなしで駆け寄ってきてくれる。そんな、旭のまっすぐな優しさが、今はたまらなかった。
優しくなんてしないでほしい。ズタズタに傷つけて、蹴飛ばして、打ち捨ててほしかった。
「大丈夫」
慈しむように肩をさすってくれる旭の手を、できるだけ柔らな手つきで外す。意識して、落ち着いた声をつくった。平常な声がするりと出て、ひっそりと安堵する。
「ちょっと、眠くてさ」
「は?」
「体調悪いとかじゃないから。……ひとり?」
なんでもない顔をして尋ねながら、あたりを見回す。見渡せる範囲のどこにも、旭以外の姿はない。
付き合いたても付き合いたてなのだから、当然、一緒に帰るのだろう。あとから合流するのだろうか。
あれこれ考える俺をよそに、旭は、「他に誰が見えるんだよ」とおかしそうに笑った。向けられた邪気のない笑顔につられて、俺の顔も自然と緩む。
おかしな話だ、と思う。旭を盗み見ていたせいで、ついさっきまで立ち上がれないほど揺さぶられていたのに、そこから引き上げて安らぎを与えてくれるのもまた、旭だなんて。
大丈夫と言った俺の言葉を見極めるように顔色を見ていた旭は、本当らしいと納得したのか、顔のこわばりをほどいて隣へ腰を下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!