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「……草介?」 「おい、大丈夫か」続く声が近くなる。すぐそばにかがみ込んでくる気配がした。顔を上げずにいる俺を窺うように、何度も名前を繰り返される。  心配そうな声が嫌だった。『ごめん』なんてメッセージを寄越したきり避けていたようなやつが相手だというのに、こんなふうに、お構いなしで駆け寄ってきてくれる。そんな、旭のまっすぐな優しさが、今はたまらなかった。  優しくなんてしないでほしい。ズタズタに傷つけて、蹴飛ばして、打ち捨ててほしかった。 「大丈夫」  慈しむように肩をさすってくれる旭の手を、できるだけ柔らな手つきで外す。意識して、落ち着いた声をつくった。平常な声がするりと出て、ひっそりと安堵する。 「ちょっと、眠くてさ」 「は?」 「体調悪いとかじゃないから。……ひとり?」  なんでもない顔をして尋ねながら、あたりを見回す。見渡せる範囲のどこにも、旭以外の姿はない。  付き合いたても付き合いたてなのだから、当然、一緒に帰るのだろう。あとから合流するのだろうか。  あれこれ考える俺をよそに、旭は、「他に誰が見えるんだよ」とおかしそうに笑った。向けられた邪気のない笑顔につられて、俺の顔も自然と緩む。  おかしな話だ、と思う。旭を盗み見ていたせいで、ついさっきまで立ち上がれないほど揺さぶられていたのに、そこから引き上げて安らぎを与えてくれるのもまた、旭だなんて。  大丈夫と言った俺の言葉を見極めるように顔色を見ていた旭は、本当らしいと納得したのか、顔のこわばりをほどいて隣へ腰を下ろした。
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