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「話が、見えない」
「そうだよな、今さらこんなこと」
「そうじゃなくて。あの告白が嘘だなんて話は、とりあえずいい」
今はもっと大事な話があるはずだ。そう言おうとしたのに、
「よくねえだろ」
なぜか旭に凄むような剣幕で言われ、言葉が引っ込む。なにをそんな深刻に、と言いかけて、やめた。
「いいんだ。わかってたから」
小さく、ひとつ息を吐く。
「最初から、知ってた」
「……え?」
「嘘だって知ってたんだ。褒められた冗談じゃないのはたしかだけど、それを言うなら俺の方がよっぽどだよ。だから、俺相手に旭が気に病むことはないし、謝ってくれなくていい」
ぽかんとしていた旭は、「じゃあ」とわずかに顔を歪めた。
「おまえのアレも嘘だったってこと?」
アレ、が瞬時にわからず思案し、自分の告白だと気がついた瞬間、
「そんなわけあるか」
反射のように、否定の言葉が口をついていた。
まだほんのかすかに残していた、「逆ドッキリ的にからかってやろうと嘘に乗っかった」というたちの悪い友だちルートは、頭から完全に消し飛んでいた。そんな自己保身、旭にこんな顔をさせるくらいなら、もうどうでもよかった。
「俺が言ったのは本心だよ。だけど、旭はそうじゃないって――俺のこと、本当は好きなんかじゃないって、わかってたんだ。わかったうえで、本当のことを言えなくなるように仕向けて、利用した」
わざと、強い言葉を選んだ。持たなくてもいい罪悪感を薄めてやりたかった。そんなもの、最初から存在する必要すらないのだから。
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