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「旭は、騙されてたんだよ。だから、本当に気にしないで、本題を話して」
「本題?」
「美倉さんのこと。……付き合うんだろ?」
喉に引っかかる声を、なんとか押し出した。
「律儀に関係を清算しようとしてくれるところは旭らしいけど、そもそもが嘘の関係なんだ。俺のことなんか、気にかけてくれなくても大丈夫だから」
顔を上げることができず、床を見つめたままで淡々と言葉にする。旭はしばらく黙っていたが、少しして、間の抜けた声で「え?」と言った。
「なに、美倉がなんだって?」
「付き合うんでしょ?」
「いやいや。なんでそういう話になるんだ」
こんなところでつまらないはぐらかし方をされて、カッと頭に血が上る。これでも、最後の誠意だ、と嫌われる覚悟で手の内をさらしたつもりだった。それなのに、俺が本当に旭を好きなのだと知ってなお、どうせすぐに知れるようなことを、こんなふうにごまかすなんて。あまりにも悪趣味だ。
「……じゃあ、さっきの顔はなんだったんだよ」
俺は冷えた目で旭を見据えた。
「さっき?」
「見てたんだ。図書室でふたりが話してるの」
「え!」
ここにきて一番の大声が真隣から響き、キンと耳が痛む。
「き、聞いてた……?」
一瞬にして真っ赤に染まった顔で小首をかしげられ、図書室で見た光景がフラッシュバックした。
ぐらぐらと腹の底で燃えていた炎が、マグマのように噴き上がる。
旭の両脚を跨ぐように真正面に膝立ちすると、強く両肩を掴む。旭がたじろぐのがわかっても、止められなかった。
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