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赤い目元でじとっと睨みながら、旭は両手で俺の頬を包むようにして、ぺちりと叩いた。必然、ぐっと顔が近づく。旭のまつげに乗った光が揺れて、合コンの帰り、ふたりで歩いた夜道の灯りと重なった。
あの日、合コンなんかで会った相手を本当に好きになるものかと問われて、たしかに言った。
――ただ、いいなって、好きだなって思ったら、もう始まってるんだ。
添わされた手の下の頬に熱が集まる。胸がきゅう、と詰まって、そっと、目の前の唇に指先を当てた。
「……昨日したキス、本当に嫌じゃなかった?」
「っ、べつに」
「今日はどうだろ」
「ばか」
今度はべしっとおでこを叩かれて、ついでに唇に触れていた手も払われる。すぐそばにあった熱が離れていくのを寂しく思っていると、隣に座り直した旭がどすっと勢いよく肩をくっつけてきたから、思わず小さく笑ってしまった。
「笑ってんじゃねえ」
「ごめんごめん」
旭はむすっとした顔を作ってみせる。本当に怒っているわけではないのは、顔を見なくてもわかる。
俺はくっついている肩に、少しだけ身体を寄せた。
「しっかし、草介があんな怒るとこ、はじめて見た」
「俺も、あんなになったの、生まれてはじめて」
「ふうん?」
まんざらでもなさそうに言う旭がおかしくて、うれしい。でも顔に出すとたちまち仏頂面になってしまいそうだから、機嫌を損ねないよう、こそっと内心でだけ笑う。
「そういえば、あれ、なんだったの」
「ん?」
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