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「…………納得、したかよ」
ぼそり、とつぶやく声に、ようやく脳が反応した――どころか、強烈な大波となって思考のすべてを飲み込んだ。
「あきら」
名前を呼びながら、肩に触れたままの拳を手のひらで包む。ゆっくりと身体を寄せても、旭は抵抗しなかった。お互いの間にあった距離が縮まり、わずかにうつむいた旭の額がすぐそこまで近づく。前髪越しにそこへ口づけると、触れた髪の体温のない感触に、もっとあたたかいものへ触れたくなった。
「……くちにも、していい?」
「ダメ」
ぽうっと惚けていた意識が、一瞬で氷水へと突き落とされる。間髪いれない拒絶に、荒れ狂うほどの大波も、しゅんと引いていく。けれど、
「そっか」
軽く返し、もう一度、髪に唇を寄せた。嫌がることは、もうひとつだってしたくない。
「帰ろうか」
ぽん、と肩を叩き、身体を離す。……直後、強い力で元の位置へと引き戻されていた。
なにが起きたのかわからずうろたえているうちに、唇になにかがぶつかる。
旭にキスされている――そう気がついた瞬間、火がついたみたいに身体が熱くなった。
唇に唇が押し当たるだけの、色気もなにもないキスだ。けれど、顔を離した旭の、俺を見つめる潤んだ瞳はあまりに雄弁で、脳を侵すような強烈さは、両手の指先までをピリピリと痺れさせた。
言葉を封じるように旭に初めてキスしたときとも、衝動のままにキスしたときとも、全然違う。
相手の――旭の気持ちが自分に向いているキスが、こんなにも強く胸を揺らすものだなんて。
言うべき言葉がなにも見つからず、真っ白な頭で、目の前の恋い焦がれる人を見つめ返す。
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