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ジュライ・トゥルーラバーズ
風に膨らむカーテンを押しのけて顔を出した旭は、どかりと前の席へ腰を下ろした。
席の持ち主はチャイムとともに出ていって、すでに教室にはいない。他のクラスメイトも、少しでも涼しい場所へと逃れていき、昼休みの教室に残る人影はまばらだった。
ついさっき旭の手で払われたカーテンは、開いた窓から一度青空へ吸い込まれたあと、折り返す風をはらんで、再びもっふりと旭に被さる。
「んあー! うっとうしい!」
ぼふぼふ、と風ごとカーテンを叩く旭に、
「暴れると余計に暑くなるよ」
と俺が言うと、旭は小さく唸り、諦めたようにカーテンから手を離した。
クーラーのない学校において、夏場の窓側の席はなんとも言いがたい席である。日光はきついし、風も吹けば涼しいのだが、いざ吹いたら吹いたでカーテンと延々削り合いをするはめにもなる。
どうやら、旭にとっては削り合いの色が強いらしい。それでも、文句を言いながら毎回、俺の席までやってきてくれるのだから、夏の暑さもカーテンの侵略も、俺にとってはどうということでもなかった。
「席替えしなきゃ、オレも草介も窓から二列目で、ちょうどよかったのに」
何度聞いたかわからない文句を言いながら、旭はポケットからスマホを取り出す。はまっているソシャゲがフェスのまっただ中らしい。
「旭のところは旭のところで暑いしな」
「そうなんだよなー」
旭の席は廊下側の一番後ろだが、ドアのすぐ横でゴミ箱の近くという微妙な席だ。風も抜けず、夏は暑い。
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