ジュライ・トゥルーラバーズ

1/4
前へ
/65ページ
次へ

ジュライ・トゥルーラバーズ

 風に膨らむカーテンを押しのけて顔を出した旭は、どかりと前の席へ腰を下ろした。  席の持ち主はチャイムとともに出ていって、すでに教室にはいない。他のクラスメイトも、少しでも涼しい場所へと逃れていき、昼休みの教室に残る人影はまばらだった。  ついさっき旭の手で払われたカーテンは、開いた窓から一度青空へ吸い込まれたあと、折り返す風をはらんで、再びもっふりと旭に被さる。 「んあー! うっとうしい!」  ぼふぼふ、と風ごとカーテンを叩く旭に、 「暴れると余計に暑くなるよ」  と俺が言うと、旭は小さく唸り、諦めたようにカーテンから手を離した。  クーラーのない学校において、夏場の窓側の席はなんとも言いがたい席である。日光はきついし、風も吹けば涼しいのだが、いざ吹いたら吹いたでカーテンと延々削り合いをするはめにもなる。  どうやら、旭にとっては削り合いの色が強いらしい。それでも、文句を言いながら毎回、俺の席までやってきてくれるのだから、夏の暑さもカーテンの侵略も、俺にとってはどうということでもなかった。 「席替えしなきゃ、オレも草介も窓から二列目で、ちょうどよかったのに」  何度聞いたかわからない文句を言いながら、旭はポケットからスマホを取り出す。はまっているソシャゲがフェスのまっただ中らしい。 「旭のところは旭のところで暑いしな」 「そうなんだよなー」  旭の席は廊下側の一番後ろだが、ドアのすぐ横でゴミ箱の近くという微妙な席だ。風も抜けず、夏は暑い。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加