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「言ったろ。金がないからって」
「でも、あれは嘘だろ」
「は!?」
「言ってなかったけど、おまえの嘘は全部わかるんだ、俺」
にこりと微笑んで見せると、旭は複雑に歪めた顔で、ぺたぺたと自分の顔中を触った。
その拍子に、旭が背中で押さえつけていたカーテンが解放されてしまう。
「ぶわっ」
カーテンは風に広がって、一息に光の向こうへと旭を飲み込んだ。取り残された俺も、旭を追ってカーテンをくぐる。遮断を解かれた光のあまりの眩しさに、くらりとした。
風向きが変わったのか、強すぎない風が絶え間なく吹き込み続けて、カーテンの裾がアールを描く。膨らんだライトベージュが、俺と旭と空、みっつだけの切り取られた空間をつくっていた。
「……合コンのあとからさ」
「うん?」
「旭、やたら美倉さんと仲よくなってたみたいだったから……俺、正直、いい仲になっちゃったのかと思った」
近くに人はいなかったが、声のトーンをできるだけ落として言う。旭は、「いい仲て」とおかしそうに笑った。
「バイト、紹介してもらったんだよ。それで、シフトのこととか話してただけ」
「バイト? 旭が?」
そんなの初耳だ。
「短期だったからもうやってねえけど。一ヶ月くらいな」
「なんでまた……」
「言ったじゃん。金ないって」
「でもそれは嘘でしょ」
間髪入れずに言うと、旭は、うぐっと小さく呻いた。
「や、嘘ってわけでも……メインが別にあっただけで……」
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