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旭は本当に嘘をつくのが下手だな、と思う。
右の眉は不自然にほんの少し上がるし、左の口角はむずむずと落ち着きなく動く。
自分では気がついていないのだろう。というか、おそらく、俺以外には誰も。
そういえば、今日はエイプリルフールだったか。無意識に、部屋の壁掛けカレンダーへと視線をやる。4月1日、月曜日。毎週購読している漫画雑誌がそろそろ店に並んでいるころだな、なんて考えていると、痺れを切らしたらしい旭が、俺を覗き込むようにして身を寄せてきた。
「なあ、草介。オレの言ったこと、聞いてた?」
「ああ、うん」
「……すきだって、言ったんだけど」
旭が、またも件の癖を顔面いっぱいに表しつつ言う。
緊張しているのか、ほんの少し上がった眉の下のまぶたが、ぴくぴくと小さく痙攣している。そのままじっと見つめていると、満足したらしいそぶりで身体を引く。さてネタばらし、とばかりににやにやと表情を緩ませたのをみとめて、引かれた分よりも倍の距離を詰めた。驚いた様子で薄く開いた旭の唇を、自分のそれでぴたりと塞ぐ。
「じゃあ、付き合おっか。すきだよ、俺も。旭のこと」
返事を待たず、もう一度口づける。「うれしい」と顔をほころばせて見せれば、素直すぎる旭の顔から、みるみる表情が失せていった。
……馬鹿だなあ。本当に。
「四月馬鹿」とは、直訳のわりに言い得て妙な表現だ。そう思いながら、未だわけがわからないといった様子のまま、けれど迂闊にもうなずいてしまう旭の震える髪を、慈しむように指先で撫でた。
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