1/1
127人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ

 (あきら)は本当に嘘をつくのが下手だな、と思う。  右の眉は不自然にほんの少し上がるし、左の口角はむずむずと落ち着きなく動く。  自分では気がついていないのだろう。というか、おそらく、俺以外には誰も。  そういえば、今日はエイプリルフールだったか。無意識に、部屋の壁掛けカレンダーへと視線をやる。4月1日、月曜日。毎週購読している漫画雑誌がそろそろ店に並んでいるころだな、なんて考えていると、痺れを切らしたらしい旭が、俺を覗き込むようにして身を寄せてきた。 「なあ、草介(そうすけ)。オレの言ったこと、聞いてた?」 「ああ、うん」 「……すきだって、言ったんだけど」  旭が、またも(くだん)の癖を顔面いっぱいに表しつつ言う。  緊張しているのか、ほんの少し上がった眉の下のまぶたが、ぴくぴくと小さく痙攣(けいれん)している。そのままじっと見つめていると、満足したらしいそぶりで身体を引く。さてネタばらし、とばかりににやにやと表情を緩ませたのをみとめて、引かれた分よりも倍の距離を詰めた。驚いた様子で薄く開いた旭の唇を、自分のそれでぴたりと塞ぐ。 「じゃあ、付き合おっか。すきだよ、俺も。旭のこと」  返事を待たず、もう一度口づける。「うれしい」と顔をほころばせて見せれば、素直すぎる旭の顔から、みるみる表情が失せていった。  ……馬鹿だなあ。本当に。 「四月馬鹿」とは、直訳のわりに言い得て妙な表現だ。そう思いながら、未だわけがわからないといった様子のまま、けれど迂闊(うかつ)にもうなずいてしまう旭の震える髪を、慈しむように指先で撫でた。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!