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屋上の雄叫び
「あー! もうやだ!
わたし空っぽー!!」
放課後の屋上で、わたしはまた叫んだ。
今日も友達と上手くやれなかった。
なんでかは、わかってる。
わたしには、自分ってものが無いのだ。
だから、言うこともやることもブレまくり。
それで……ちょっとケンカみたいになる。
ケンカっていうか、わたしが一方的に文句言われるだけなんだけどね。
ちょっと文句言うだけで、あとはすぐに許してくれる友達に感謝してる。
でもそれを伝えられない自分に、また自己嫌悪してる。
「なーんなんだよ、もおーっ!」
「牛か。」
「えっ?」
いきなりツッコまれて、わたしはふり向いた。
同じクラスの男子である高山南人が笑いながら立っていた。
「なに?!」
わたしは警戒した。
なぜなら今、屋上には高山とわたししかいないからだ。
え、自意識過剰ですか?
いやいやいや! 女の子はいつも自意識過剰なくらいがいいと……断言したのはお母さんで、わたしが自分で心に決めたわけじゃない。
「あー、また落ちた……。」
わたしが手すりをパンッとはたくと、高山は1メートルくらい離れて手すりに肘をついた。
「お前、いっつもここで叫んでるだろ。」
「な、なんで知ってるの! ストーカー!?」
わたしが飛びのくと、高山は吹いた。
「なんでだよ。
単にこの真下が理科室で、俺が化学部だからだよ。もろ聞こえなの!」
「あ、そゆこと……。」
いきなり恥ずかしくなって、わたしは黙り込んだ。全部聞こえてたのか。
高山は空を見て言った。
「お前、スライム知ってる?
ゲームのじゃなくて、こう、トロンとしたやつ。」
「え? う、うん。遊んだことはあるけど。」
「あれってさ、骨もなければ、決まった形もないだろ? だけど存在として確立してて、認識もされてる。」
「うん……そうだけど……。」
なんだ? 急に語りだしたりして。
わたしは高山の意図がわからなくて、曖昧な相づちしかできなかった。わたしが曖昧なのは、いつものことだけどね。
高山はわたしをふり向いて言った。
「だから、お前もそのままでいいんだよ、五月由美!」
高山はわたしの背中をバン!と叩いて笑い、去っていった。
「……こら。女子の背中にふれるなんて、セクハラだぞ。」
わたしは1人で文句を呟いた。
「骨ナシ、形ナシ、か。」
でも、色付けはできるんだよね、あれって。
わたしは初めて受けた男子からの励ましに、ドキドキしていた。
「やだ、頬赤いかも。」
頬に熱を感じたわたしは、屋上の外を向いて、両手で顔を隠した。
ドキドキは、止まらなかった。
「これって……恋?」
わたしはハッとした。
「恋バナができる!」
あの日替わりで気分次第の、気まぐれ極まりない、わたしに向いていそうな恋バナというやつが、できるかも知れない!
どんよりしていた心が、パッと華やかな色に染まった気がした。
「ありがとー! 高山ー!!」
屋上での癖で、思ったことをついそのまま叫ぶと、
「はいよ~。」
と、返事があった。真下の理科室から。
「うわわわわ💦」
わたしは意味もなくしゃがみこんで隠れた。
そして、呟いた。
「青春、だ。」
先ほどまでの落ち込みはどこへやら、わたしはふふふっと笑ってしまったのだった。
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