2「叶えたい夢があるんだ」

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 スローライフがしたかった理由の一つは、もうあくせく働いて大変な思いをするばかりの生活が嫌だったからというのが大きい。楽してのんびり農業ライフをするためだけに、死ぬ思いをして発掘隊に参加するのが正しいのかと問われると、多分答えはノーだろう。  でも。 「……俺、思うんだ」  前世で、何故あんなにも毎日満たされなかったのか。今は、なんとなく分かるような気がするのだ。  毎日毎日毎日毎日。擦り切れるほど会社に詰めて、仕事をして。それでも報われなくて罵倒され続けて。そんな日々が心底嫌になったのは、ただ仕事が多くてブラックだったというだけではないのである。 「結局、努力しないで欲しいものなんて手に入らないだろ。なんの努力もしないで楽して生きていけたらいいと思うけど、世界はそんな甘いもんじゃないしさ」 「まあ、そうだろうな」 「うん。だから……だったらさ。どうせなら、自分が本当にやりたいことの為に命を賭けて頑張った方が良いんじゃないかと思うわけだよ」  もし。  前世で、自分が“やりたい夢をかなえるために仕事をしていた”のだとしたら。多少仕事量が多くても、上司が厳しくても耐えられたかもしれないのだ。  でも実際は、就職氷河期に散々落ちまくってやっと内定をくれた会社に滑り込んだら超ど級のブラック企業で、他に選択の余地もないから頑張り続けるしかなかったというオチである。やりたい業種でもなかったし、やりたい職種でもなかった。自分の仕事が誰にとってどのように役立っているのかもさっぱりわかっていなかったし、今日自分が何で残業しなければわからないのか、仕事の残りがどれくらいあるのかも把握できないままひたすら指示をきくロボットに成り果てていた。  趣味を楽しむ余裕もない。趣味のお金を稼ぐために仕事をする、なんて目標さえ立てられなくなっていた。そんな会社で、よく二十年近くも頑張り続けられたものである。否、頑張ることができなかったからこそ過労死なんて親不孝をしてしまったとも言えるわけだが。 「楽をするために、今死ぬ気で頑張る……ってのは。多分、やりたくないことのためにほどほどに頑張ることより、ずっと充実してるというか。自分のためになってると思うだよなあ」  スローライフがしたいのは、単にあのブラックな世界から抜け出したかったからではない。  故郷の、のんびりした村の風景を思い出すからだ。小さな頃はよくおじいちゃんとおばあちゃんの畑を手伝っていた。とれたてのトマト、キュウリ、ナスのなんと美味しかったことか。  そして自分が収穫した野菜を食べて“れいくんが採ってくれたおかげね”と笑ってくれたお母さん。その笑顔を見て、自分はいつか彼等の笑顔を作るための仕事がしたいと思ったのである。
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