変わり果てた海

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 魚塚はよいしょと立ち上がって、ボディバックに仕舞っていた石橋彩音の写真を取り出して霧島の眼前に突きつけた。  流石にここまでは予想していなかったのか、霧島は少し仰け反る。 「え、ナニコレ。写真? 」 「そう、写真よ。これに写っているのは石橋彩音って人。二年前、この村に行くと言って出て行ってから行方不明なの」 「へー……ああ、なるほど? この女を探してるのか」  眼前に突き出された写真を手に取り、興味あるのか無いのかよくわからない様子で霧島は写真を眺める。  彼の若干的を外した言葉に、魚塚は笑いを堪えるのに必死だった。 「っ、いいえ。違うわ」 「え、じゃあ……? 」 「その人の遺品探しよ」 「は? 」  これには霧島も予想外だったのか、驚いた様子で横の女を見やる。しかし不敵な笑みを浮かべたままの魚塚に、霧島なりにこの女性は嘘をついていないと察したのだった。 「……探偵さんってそんなこともやるんだね? 」  どう反応を返せばいいのか迷った中、霧島はどうにか言葉を選んで投げかけたのがまざまざわかる。  若干乾いた笑みをする彼に、魚塚は死んだ目を向けた。 「……言っておくけど、私もこんな依頼初めてよ」 「しかし遺品……遺品、ねぇ……。そんなの自宅とかにたくさんあるだろうに」 「そうね、でもご両親が依頼してきたんだから仕方ないでしょ」  私だって最初は耳を疑ったわよ、と零す魚塚。  再度写真をまじまじと眺める霧島。彼の色素の薄いサングラスには写真の石橋彩音が映り込んでいた。 「それで? オレはこの女の遺品探しを手伝えばいいワケ? 」 「まあ早い話、そういうことよ」 「しかし遺品って言ったって……オレ別にこの女と交流あったわけじゃないから持ち物とかわからんよ」 「それは私だって一緒よ」 「じゃあどうやって……」 「ご両親の話によると、彼女が手首につけてるその赤いブレスレット、彼女のオリジナルらしいわ」  霧島の手元へ渡った写真の人物を指さす魚塚。その指先は石橋彩音の手首で主張している赤い石で作られたブレスレットをトントンと示していた。 「それらしいものを見つけたら一度見せてほしいって。本人のかどうかは見ればわかるって言ってたわ」 「達成できるかどうかも怪しいのによくもまあ……。まいっか、手伝うって言っちまったし。それで? どうやって探してるの? まさか闇雲に砂浜を漁る訳じゃないよね? 」 「誰がそんな地獄みたいなことをするか。一応聞き込み調査をしていて、昨日の時点で彼女がここに来ていたことはわかってる」 「ふーん……? 」  今一度小さく写っている赤いブレスレットを凝視する霧島だったが、飽きたのかフイっと魚塚に返す。それを素直に受け取った魚塚はボディバックへ仕舞わずに、掴んだままにした。 「ちなみにさぁ、その女がこんな村に来ていた理由とかは聞いてんの? 」 「ここの勾玉が強力だかなんだか。スピリチュアルなことにどっぷりハマっていたらしいわ」 「ああ、なるほどね……」  霧島は顎を摩りながらどこか納得がいったという表情を見せる。しかし視線は完全に海へ向いていた。明らかに何か意味ありげに見つめている。しかし魚塚はそれを特に勘ぐる訳でもなく、「いい波が来てないか確認してるのか」程度にしか考えていなかった。 「で、今日はこれからどうすんの? 」 「そうね……。昨日唯一情報を聞き出せた土産物屋の店主にもう一度お伺いしようかと」 「ん、りょーかい。ついてくわ」 「いやそっちはそっちで単独行動して……ああ、もういいわ。好きにして」  霧島から離れることを完全に諦めた魚塚。彼女の足は早速昨日情報を聞けた土産物屋へと向かう。そして霧島はどこか楽しそうにその横をついていった。
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