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ようこそ、珠津村へ
大荷物を積みながらも洗練された一台の大型バイクが華麗に高速道路から降りてきた。
そして常識の範囲内でエンジン音を響かせながら、バイクは田舎の一般道を駆けて行く。
廃れた田舎道といなせなバイク。一見不釣り合いに感じるも、ドライバーの腕が素晴らしいのか一切違和感を覚えさせない。それどころか、颯爽と風を切っていくその様はむしろ見ている側に爽快感を与えていた。
途中途中休憩をしっかり挟みながら、しばしろくな人工物がなく代り映えの無い寂れた道を走っていく。
崖に差し掛かると、よく手入れされた黒く輝くバイクの右斜め前の遠くにキラキラと太陽光を反射する青い海が見えてきた。海が見えてきたということは目的地まであと少し。東京から半日以上かけてここまでやってきたドライバーは、その海を目にして安堵と喜びが器用に混ざった感情が湧き上がっていた。しかしここで気を抜いてしまっては事故の元。ドライバーは最後のひと踏ん張りだと気を引き締めて、ハンドルグリップを握る手に力を入れ直した。
最後まで気を抜かずに走り切ったバイクは、目的地である辺鄙な漁村へと突入し、適当な駐車場へと停まる。バイクから降りたドライバーがフルフェイスヘルメットを外すと、いなせなバイクに見合ったなんとも見目麗しい若い女性がその姿を現した。老若男女誰もが振り向くであろう豊満でメリハリのはっきりしたスタイルに、これまた見事にぴっちりとしたレディースのレザージャケットとレザーパンツを着こなす彼女の名は魚塚響。東京でしがない私立探偵をしている。
バイクの収納スペースからボディバックを取り出しては、早速数枚の写真を取り出した。長い前髪で片目は隠れているものの、露になっているもう片目で写真の人物を見つめる。どの写真にも同じ人物が写っていた。
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