俺色に染まるなら

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母親は 仕事があるから と 朝 8時に それだけ言って さっさと 帰ってしまった 夜 8時に 娘を迎えに来るそうだ クライアントの 精神状況を把握することは パーソナルトレーナーの 大切な役割ではあるが 俺は ケセラちゃんの 専属パーソナルトレーナー  ではない! ジムの 会員すべて に 適切なトレーニングを行い 基本的な知識を習得できるよう 平等 かつ 公平 に 助言・指導する立場にある どうしたものか?! まず 初めに ケセラちゃん が  なぜ 死にたがりなのか  本当に 死にたがりなのか 確かめておきたい と 思った 「ケセラちゃん 今も  死にたい気持ち あるの?」 俺は 単刀直入に 尋ねた 「どうかしら・・・」 ケセラちゃんは 頬を 真っ赤に 染めて モジモジ 答えた 「まだ 若くて 可愛いのに  死んだら もったいないよ」 俺は  彼女にだけ 聞こえるように 小さな声で そう言った 『死』などという 言葉を 他の人の耳に 入れたくなかった ケセラちゃんは  黙って うつむいていた 「体が 丈夫になって  自由に 出かけられるようになれば  きっと ステキな恋人が できるよ」 「無理です 私 頭の中が  めちゃくちゃ なんです  幻聴が聞こえたり  幻覚が見えたりするし・・・」 「へえ~ どんな幻聴が聞こえるの?  俺 幻聴って聞こえたことないから  詳しく 教えてくれる? 」 「恥ずかしいから   もう少し 仲良くなってから・・・ 」 「わかった じゃさ ケセラちゃんと   早く 仲良くなりたいから   毎日 ジムに通ってくれる?」 ケセラちゃん は 黙って ジーッ と 俺の顔を 見つめた 俺は 野生の動物に 見つめられているような気持ちになり 目を離したら『負ける』と思い 彼女の瞳を 見つめ 続けた 優しい 気持ちで ぶれない 気持ちで 堂々と 見つめ 続けた プロのトレーナーとして 俺は どんなクライアントにも 臨機応変に対応できる という 動じない信念 を 持っている しばらく 見つめ合っていると ケセラちゃん は 急に 泣き出してしまった 驚く 俺に  ケセラちゃんは 「私 頑張ってみます」 と 涙声で言った 「こんなふうに 私を しっかり  見つめてくれた人  初めてなんです  だから・・・  だから・・・  嬉しかったんです うわあぁ~~ん」 ケセラちゃんは そう言って 泣いた 寂しかったんだな だから 死にたくなったんだ 俺は みだりに クライアントの体に  手を触れないことにしている 抱きしめてやりたい気持ちは やまやま だったが 言葉で  抱きしめることしかできない 「じゃ 今から 俺のことは   レイ先生 と 呼ぶこと  君のことは ケセラちゃん   と 呼んでいいかな? 」 「はい レイ先生」
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