場違いな忘れもの

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場違いな忘れもの

「やだ、まだ部長に、怒られてるの?」  外回りから帰ってきた主任が、怪訝そうに言った。 「出張先に、忘れものしたそうなんです」 「今回はどこ?」  手招きして、耳打ちする。 「…………まずいじゃない」  眉をひそめて、呟いた。 「しかも今回で、3回目で」 「3回目なの!、じゃあ、仏の部長も――」 「ほら、もう、リストに載ってますよ」  話を遮るように、後輩が小型のタブレットを見せた。 「あーあ、回収作業、大変そう」  一回、このリストに載ると、ややこしい手続きが増えるらしい。 「忘れものが無いかを確認するのも、大事な仕事のひとつなんだけど」 「OJT研修、主任がやってましたよね?」  空気を読まない後輩は、余計なことを言ってしまう。 「私だけじゃないからね、他に3人はついたから」  やや青ざめながらの、苦笑い。  私もついたが、黙っていよう。 「どうなるんですか?」  私。 「クビですか?」  後輩。 「……いいじゃないの、それは。取引先でお菓子頂いたから、ちょっと休憩しましょ、部長も怒りっぱなしじゃ、体に良くないわ」    更新された『オーパーツ一覧(リスト)』の画面を消して、後輩は嬉しそうにお菓子の袋を受け取った。 ◇◇◇人事異動のお知らせ◇◇◇  人事異動について、下記の通りお知らせいたします。  タイムトラベル添乗部添乗第3課 トウ・フジマキ お客様相談センターへ異動。                                 以上
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