カノン・セリザワ

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私は一人部屋を出る。見慣れた真紅の廊下だ。エレベーターで一階に降り、外に出る。 「……寒い」  私は体を震わせる。そして、気づいてしまった。  この先、どこへ行けばいいのだろう?  私は呆然とした。  わからない。親は頼れないし兄はいない。支援してもらえそうなところも知らない。  セリザワなしじゃ、もう私は生きていけないんだ。  人々は歩くだけで、私を見ようともしない。振り返ると、呑気な顔をした私がポスターに貼られている。  そこで気づいた。モデルが半年ごとに変わっていることを。そうか、こんなカラクリがあったのか。  行き先がない。スマホで調べよう。  スリープを解除してホーム画面を開くも、電波が入っていなかった。契約が切れていた。 「あ……」  もう一個、家から持ってきたスマホがある。電源をつけると「充電してください」の文字が表示された。モバイルバッテリーを繋げる。  固く冷たいアスファルトに腰を下ろしながら、私はこのまま飢え死にするのではないかと考えた。  いやいや、そんなことないでしょ。大丈夫でしょ。  でも、家には帰れないよ? どこに行くっていうの?  北風に真紅のコートがはためく。  充電がちょっとできたようで、スマホは起動を始めた。  通知がエグいことになっていた。  真弓! 今どこにいるの!?  どこにいるの! 教えて!  まさか家出じゃないでしょうね!?  その数、数百件。母親だけでだ。あまりにも多い。私は通知を全部消す。 「はぁ……」  こっちのスマホはまだ大丈夫だった。検索ボックスに「家がない」と打ち込む。すぐにサイトがヒットした。  ここなら行けるかな。NPOだし。電車を乗り継ぎしなきゃいけないけど。県境もまたぐけど。警察は行きたくない。親に連絡を取らされるからだ。多分。  お金はある。きっと大丈夫。  そんな小さな希望を持って、私は立ち上がる。駅へ向かって歩き出した。  あまりにも真紅すぎるコーデに、すれ違う皆が私を見つめる。以前は心地よかった視線が、今では気持ち悪い。  真紅に染まった私。もうセリザワなしでは生きていけないとも思っていたけど、そんなことはない。私は生きるんだ。あなたなしでも生きていけるって証明してみせる。  見てろよ、芹沢花音。
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