カノン・セリザワ

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 最終予選はくじ引きだと発表されて、私はものすごく驚いていた。  この三年間努力してきた結果が最終的には運で左右されるなんて。まぁ確かに、最終予選の内容は記事にすらなってなくって、結果しか載ってなかったけど。知らなかったけど。さぁ。 「小川さん。最終予選の時間です」  スタッフが控え室に来て言う。 「あ、はーい」  これまで頑張ってきたんだから。第二次予選まで勝ち抜いてきたんだから。きっと私ならいける。  ステージに向かう。  私の他に、二人の女の子。二人ともすらっとしていている。私に負けないくらい。  たくさんのカメラが静かに私たちを捉えている。  司会が声を張り上げる。 「さぁ最終予選のくじ引きでございます! 残った三人のうち、誰が栄光を手に入れるのでしょうか!」  ほぼ同時にくじを手にする。  モデルになるために、そう、カノン・セリザワのモデルになるためだけに、頑張ってきたんだ。 「準備はよろしいですか?」  私なら。そう、私なら。絶対なれる! 「では、せーのでいきましょう。せーのっ!」  怖くてぎゅっと目を瞑ってくじを引く。恐る恐る目を開けると、私の手には先端が深紅色に染まったくじが握られていた。 「小川真弓さん! あなたが次期カノン・セリザワのモデルです!」  それまで静かだったカメラがパシャパシャと音を立てる。眩しかったけど、私の目は不思議とくじの真紅を見つめていた。 「……うそ」  他の二人を見ると、笑顔で私に拍手を送っている。口を引きつらせている。司会はにこにこと笑っている。  スタッフから花束を渡される。こんな大きい花束、初めて見た。重い。  落選した二人がはける。 「それでは、小川さんにインタビューです! 今のお気持ちは?」 「え、えっと……すごく、ものすごく嬉しいです。嘘なんじゃないかって思っちゃうくらい」 「良かったですね! それでは、最終予選はここまでにさせていただきます! ご来場の皆様、ありがとうございました!」  あっけな。こんな短かったっけ。  司会と共に私はステージ横に歩く。カメラが最後まで私を捕らえて離さなかった。
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