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二週間後。私はアパートの荷物を全てまとめて、セリザワのいるビルへ向かった。
「でっか……」
何階建てのビルなんだっけ。カノン・セリザワの一ファンとは言え、ビルの高さまでは把握していなかった。最上階に行け、ということくらいしか知らない。
自動ドアを抜けると、綺麗な受付嬢が綺麗にお辞儀をした。私も会釈で返す。シャンデリアがきらきらと光を弾き返している。
一階を歩き、エレベーターに乗る。最上階は三十階だった。30のボタンを押す。ドアが閉まる。
カノン・セリザワは日本の服飾ブランドだ。展開している商品は女性向けのワンピースやイヤリング、カチューシャなどだ。いわゆる地雷服と相性がいいかもしれない。
地雷と言われようと、私はカノン・セリザワの服が好きだ。今日も同ブランドの服を着てきた。セリザワに変に思われないように、全身コーデでキメてきた。もちろんメイクも。
特徴としては、ロゴの真紅が全てのアイテムに使われていることだろうか。メインカラーだったり、添えるようにちょこっとあったり。裏地が真紅なんてこともある。なんだか高級感があって、私は好きだ。
エレベーターの音が止まる。最上階に着く。
ドアが開くと、真紅が私を迎えた。
天井も壁も床も真紅。床はカーペットだった。私の靴音を吸収する。
少し歩くと、ドアがあった。ノックをする。
「はーい」
美しい女性が現れた。髪は長く、黒く、腰まであってさらっとしている。手入れが行き渡っている。白いニットに真紅のタイトスカート。もちろんカノン・セリザワのものだ。メイクは薄めで、本来の彼女が現れているように見える。美人の範疇に余裕で入る。
雑誌や記事でしかみたことがない、そう、この人は。
「せ、セリザワさん……」
「まずは挨拶でしょ。こんにちは」
「こ、こんにちは……」
「真弓ちゃんね?」
私が首を縦に振ると、セリザワは満足そうに微笑んだ。
「さ、暑いでしょうから。早く中にいらっしゃい」
八月のことだった。
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