カノン・セリザワ

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 二週間後。私はアパートの荷物を全てまとめて、セリザワのいるビルへ向かった。 「でっか……」  何階建てのビルなんだっけ。カノン・セリザワの一ファンとは言え、ビルの高さまでは把握していなかった。最上階に行け、ということくらいしか知らない。  自動ドアを抜けると、綺麗な受付嬢が綺麗にお辞儀をした。私も会釈で返す。シャンデリアがきらきらと光を弾き返している。  一階を歩き、エレベーターに乗る。最上階は三十階だった。30のボタンを押す。ドアが閉まる。  カノン・セリザワは日本の服飾ブランドだ。展開している商品は女性向けのワンピースやイヤリング、カチューシャなどだ。いわゆる地雷服と相性がいいかもしれない。  地雷と言われようと、私はカノン・セリザワの服が好きだ。今日も同ブランドの服を着てきた。セリザワに変に思われないように、全身コーデでキメてきた。もちろんメイクも。  特徴としては、ロゴの真紅が全てのアイテムに使われていることだろうか。メインカラーだったり、添えるようにちょこっとあったり。裏地が真紅なんてこともある。なんだか高級感があって、私は好きだ。  エレベーターの音が止まる。最上階に着く。  ドアが開くと、真紅が私を迎えた。  天井も壁も床も真紅。床はカーペットだった。私の靴音を吸収する。  少し歩くと、ドアがあった。ノックをする。 「はーい」  美しい女性が現れた。髪は長く、黒く、腰まであってさらっとしている。手入れが行き渡っている。白いニットに真紅のタイトスカート。もちろんカノン・セリザワのものだ。メイクは薄めで、本来の彼女が現れているように見える。美人の範疇に余裕で入る。  雑誌や記事でしかみたことがない、そう、この人は。 「せ、セリザワさん……」 「まずは挨拶でしょ。こんにちは」 「こ、こんにちは……」 「真弓ちゃんね?」  私が首を縦に振ると、セリザワは満足そうに微笑んだ。 「さ、暑いでしょうから。早く中にいらっしゃい」  八月のことだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加