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両親はいわゆる毒親だ。いい子という理想を子供にぶつけて、思い通りにいかないとすぐにキレる。毎日怒鳴られて育ってきた。共働きで、早く家に帰れるときが唯一安心できる時間だった。
だから、親には何も言わずに応募したし、何も言わずにここに来た。
それに、親のせいで兄は……自ら死を選んだ。
そんな兄が最後に遺した言葉が、
「真弓は美人なんだから、モデルになりなよ。きっとたくさん稼げるし、親からも逃げられるよ」
だから、逃げてきたんだ。親から。家から。地元から。
兄の言葉を叶えるために。
「そんな感じで、私は、私は……」
気づけば泣いていた。カバンからポケットティッシュを取り出し、涙を押さえる。
「……そんなことがあったのね」
香水の匂いが少し強くなる。目の前に誰もいなくて、振り返ると、セリザワがそこにいた。
「大丈夫よ、真弓ちゃん。ここではそんなこと起こらないから」
セリザワが私の頭を撫でる。優しいセリザワ。私はさらに泣いてしまう。
「そんなに嫌なら、スマホを新しく契約しましょうか? 新しい電話番号にしたいわよね?」
「もちろんです」
「すぐ申し込んでおくわ」
私が啜り泣きになったのを見計らって、セリザワは電話をかけた。
涙を拭きながら、私はセリザワの元に来てよかった、としみじみ思った。
だって、ただのモデルにこんなに親身になってくれるんだもん。優しい人だ。こんな素敵な人の立ち上げたブランドのモデルになれて嬉しい。
「色は何がいい? 赤と黒と白があるけど」
「赤でお願いします」
「わかったわ」
せっかくなら、スマホも真紅に染めたい。
私はこれから、セリザワの真紅に染まるのだから。
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