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伝説の国
世継ぎが誕生したという知らせは都を駆け巡った。悪い宰相がいなくなり世の中が変わっていくと信じる人々は、この知らせを歓喜を持って受け取った。
その十日後、花霞も無事出産した。銀色の髪の、可愛らしい女の子だった。花霞はたいそう喜び、雹華と名付けた。
そして……小鈴はその二日後、女児を出産してひっそりと亡くなった。
もともと身体も小さく弱く、ただでさえ妊娠に耐えられるかわからなかったのに、兄の事件以降まともに食事も取らず気力もなくす一方だったのだ。かなりの難産となり、結果として命を落としてしまった。
泰然は小鈴を丁重に弔った。そしてこの女児を誰に託すか思案していた時、三ノ宮妃夏雲が名乗りを上げた。
「だが夏雲。そなたと青蝶は後宮を出て新たな人生を歩むことになっていただろう」
泰然はいたずらに後宮に妃を縛り付けることはやめようと考えていた。だからまだ懐妊していない青蝶と夏雲には後宮を出て愛する人を探し結婚する道を勧め、二人ともそれを了承していたのだ。なのに、なぜ。
「私の実家はかなり裕福ですわ。生活に困ることはありませんのに誰かに嫁ぐのも面倒くさいですし、静かな後宮暮らしは気に入っていますの。ここで花霞様とのんびり、子育てするのも楽しいかと思いまして」
そう言って女児を嬉しそうに抱いた。
「名前は、どうなさいますか? 私でよければつけてもよろしいでしょうか」
「なんという名前に?」
「月鈴、と」
泰然は夏雲に感謝した。小鈴の名を一つ取って名付けてくれたことを。
「夏雲、ありがとう。月鈴をよろしく頼む」
「はい、泰然様。お任せくださいませ」
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