要の恋人

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「あのさ」 味噌汁を一口啜り、やっぱりうまいなと思いながら要を見る。今朝は昨夜、つばめが味噌汁をあまりにも絶賛したので多めに作ってくれたらしい。優しくて気が利くな。うちの会社にいてほしいくらいだよ、一人くらいこういう人がさ。 「どうしたの?おかわり飲む?」 つばめが聞きたいことくらい分かっているだろうに。もちろんおかわり飲みたいけどさ!要はつばめの味噌汁のお椀にたっぷり注いでくれる。 「…これから、どうするの?」 「どうしよっかな。まあ昨日はつばめが泊めてくれたから今日の泊まれる分だけのお金はあるから今日の心配はないけど明日からだよね、問題なのは」 要のリュックから無料の求人雑誌が飛び出てる。大きく「寮完備!即入社!!」と謳っている。けどそれは要が就いていた料理人の仕事ではなくて自動車などを作る工場の仕事だった。 「…料理人の仕事じゃなくていいのか?」 「贅沢言えないよ。生活のほうが大事。一応探したけどさ、パートでしか募集してなくて。厳しいんだよ。今、飲食業界は」 元気よく答えて笑顔を作っているけど、寂しさは隠しきれていない。つばめはとりあえず一口味噌汁を啜る。やっぱりうまい。要が行こうか考えているその工場の仕事に就いてしまったら長時間労働はもちろん、疲れも半端ない。帰ってすぐ寝て起きたらすぐ出社。料理なんて休みの日にしかできないだろう。要の人生なのだから要が決めることに口出す権利なんて昨日会ったばかりのつばめは特にないのだが…。
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