要の恋人

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「そう言えば何か言おうとしてたよね?」 「別に大したことじゃないよ。気を付けて行ってきな」 「うん!」 笑顔で頷くと要はリュックを背負ってつばめに軽く手を振った。まるでずっと前からここに住んでいたような、親しい人に向ける笑顔につばめも手を振り返す。 「さてと」 静かになったいつもの部屋でつばめは雑巾を握りしめる。そして窓を拭いた。そんなに汚れていないと思っていた窓は拭いてみると意外に汚れていて、白いぞうきんが灰色になった。「うわ」と思いながらも今、この窓を拭いたことで見える世界がいつもより綺麗に見える。気持ちも明るくなった。掃除、悪くないかも。綺麗になると嬉しいし。それから無心になってつばめは掃除に集中した。綺麗になった部屋で要の帰りを待ちたい。誰かのためにやるっていいもんだな。そう思った時だった。 ピンポーン。要が帰ってくるには早すぎる。誰だろう。通販も頼んでない。近所づきあいも会ったら挨拶ぐらいだし。だからインターホンが鳴るとビクッとしてしまう。新聞屋か?宗教の勧誘か?恐る恐る出てみるとその2つと無縁そうな綺麗な栗色の巻き髪の若い女性がつばめの玄関先に眉を吊り上げながらいた。
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