要の恋人

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そーっとリビングから逃げ出そうとした。しかしつばめのよれよれのTシャツを凶器の爪でがっしり掴む人物がいた。…あかりである。 「あなたもいるのよ」 「なんでだよ!」 「これから話す会話の中心になるから」 そう言うけど話の中心に自分自身がなるとはとても思えない。けどさっきから要は一言も「つばめには関係ないじゃないか」と言ってこない。何か、ばれることを恐れているような気配すらする。 「ねえ、要」 あかりは先ほどの迫力を潜め、逆に優しい声で要の名前を呼んだ。 「つばめさんと一夜、過ごせて幸せだった?」 幸せ?要は不幸続きだったはずだ。職場を失い、彼女の浮気現場を目撃し、住む場所も失い、おなかをすかせ…。あまりにも哀れだったから手を差し出したのだ。手を差し出されたということに感謝という言葉を結びつけるならわかるが、幸せというのは違和感がある。 「あーちゃんだって」 あーちゃん?ということはあかりが要の彼女か。ん?ということは浮気してた人だよね?そんな人が要を何の理由か知らないけど責めて怒っている。それってちょっとおかしくないか?自分のしたこと、忘れすぎでしょ。つばめはふつふつと怒りが込み上げてきた。
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