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「ちゃんとした手作りのやつ、食べたいな」
自分が作ると失敗するのは目に見えている。カレーどころかゆで卵も作れるか正直怪しい。彼女がいた時はよく手料理を…と思ったがあれは絶対デパ地下の惣菜を皿に移しただけだよな。彼女がいた時のことを思い出して思わず苦笑いをしてしまう。「私、料理が趣味なの!竹岡君いつもコンビニで買ってくるものばかり食べてるでしょ?休日くらい私の手料理、食べさせてあげたいな」そう言って近寄ってきたのは元カノだった。ちなみに元同僚である。長いウェーブがかかった茶色に染めた髪の毛が揺れるたびに良い匂いがしていたし、可愛いし、なぜこんな仕事に追われている自分なんかと、首を傾げながらも特別に想う子もいなかったし可愛かったし、手作り料理を食べさせてくれると言ってくれたら付き合わない選択はなくて付き合ったけど、元カノの住むアパートに行っても決して料理をする所は見せてもらえなかったし食べても美味しいけどいつも食べているものが上品になっただけですごく馴染み深い味だったのでこの子はきっと料理が苦手なんだとすぐ分かった。けど、その嘘はなんだか可愛く見えて最後まで言わなかった。仕事が忙しくて休日出勤しまくっていても「頑張ってね」「無理しないでね」と2人きりの時間が減っても嫌な顔一つ見せないならそのくらいの嘘を指摘するのは男らしくないと思ったのだ。
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