要の恋人

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「私は!」 ひゅっとあかりの喉から空気が潰れたような音が聞こえた。気が動転していつもと違う呼吸をしてしまったに違いない。あかりはそこでゲホゲホと女性が出すとは到底思えないような咳をした。背中を擦ってやったほうがいいのかと思うほどにあかりは要からの別れを受け入れたくないという思いで苦しんでいた。 「私はちゃんと好きだったよ、要のこと。要は一度も私のことを心から好きと思ってくれていなくても私はそれでも幸せだったよ」 背中、擦らなくてよかったとつばめは心から思った。あかりから見てつばめは恋敵だからだ。そんな相手に背中を擦られるなんて屈辱の極みだろう。自分が逆の立場だったら勿論嫌だ。 「あかり…」 苦しそうにするあかりを見て要は背中を擦ろうとした。恋愛としては見ていなくてもこれまでの人生を共にしたので情は当然あるだろう。それが自然だ。けどあかりはその好きな要の手を気配を感じた瞬間、パンっ!っと乾いた音を立てて跳ねのけた。
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