要の恋人

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「あの子の幸せを願うなら」 あかりさんの幸せをと言おうと思ってちょっと迷った。自分でもよく分からないけど「さん」付けで名前を呼ぶと急に距離が近くなりすぎる気がした。つばめにとってあかりはただ今日、要とあかりとの関係に巻き込まれるという濃い時間を送ったので昨日までの関係には絶対戻れないけど、苗字を名乗ってくれただろうけど思い出せないくらいには個人的に深い関係だとは思わない。つまりつばめにとってあかりの存在はいつか忘れてしまうくらいなのだ。それくらいの存在の相手を親しい人を呼ぶようによんでいいのか。しかも決別した人の前で。つばめには人にとっては気にしないことかもしれないことでも気にしてしまう癖がある。そして結局考えるまでもなくあかりの名前を出さずに「あの子」という言い方を選んだ。 「自分自身、この別れを後悔しないように生きるべきなんじゃないか?」 間違っても縋るなんてしないように。 この別れが互いにとって良かったと心から思えるように。 「…つばめは今までそうやって生きてきたわけ?」 少し睨むように、批判を込めた声で要は言葉を零す。つばめはふっと笑った。
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