要の恋人

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「どっかで聞いたことある。人は幸せになるために生まれてきたんだって。その時は綺麗事だと思った。毎日、毎日嫌なことに塗れて、言葉で形にされなくても人の視線、誰かといる時間が苦痛で仕方なくて息苦しくて、朝が来るのが怖いと思った時も何度もあった。そんな時にその言葉を聞いて、俺にはなぜか優しい言葉を選んで死ねと言われたように思えた。幸せになれてない俺は間違ってこの世に出てきて、そんな奴が生きていく世界はないよと言われたように思えて。…憎らしかった」 今もあの時ほどではないけど思うことはある。なぜ生きているのだろう。自分の価値。自分なんていないほうがいいのではないのか。辛い顔を隠し、泣きたくなるのを堪え、本当の自分なんてとうにどこかに置いて行ってしまった。 「でも、要に好きと言われたときはなんでだろうな。本当に嬉しかった。今まで彼女に好きと言われた時よりも嬉しかった。なんでだろうな。俺には男に恋する趣味はないのに」
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