きみをしる

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「あー、想像以上に可愛い」 「丹羽っ、そういうの、言うなっ」 「だって、高良さんを手に入れるなんて、嘘みたいで」 「ひとをモノみたいに言うなよ――」 「あ、すみません。あの、いいんですよね? オレのこと、好きって、言ってくれたよね? 高良さんのこと、彼氏って、言っていいんですよね」 「かれっ、い、言うなよ」 「なんで?」 「だって、そりゃ、恥ずかしい、だろ。だいたい、誰に言うんだよ」 「山元さんと、関口さんかな」 「言うな! なんで職場の」  あー、そういえば、俺はバイトに手を出してしまったことになるじゃないか。ちゃんとごまかせるだろうか、俺、職場で、丹羽を見て普通にできるんだろうか。  あれ? 「山元君と関口さん? なんで?」 「あ、だって、オレが高良さんを狙ってたの、知ってるから」 「知っ?」 「山元さんには相談してたし、関口さんは気づいてたみたいで」  そうなのか? それを、今まで、まったく気づかなかったのって、俺だけってそういう話か?  そんなの、 「丹羽ああ!」 「だって! 気づいてなかったの、本当に高良さんだけじゃない?」  考えなきゃいけないことも、感じることもたくさんあるはずなのに、頭がまわらない。でも、 丹羽がわらうから。嬉しそうに、優しく。  じゃあ、もう、それでいいのかもしれない。丹羽が笑ってくれるなら、それで、いい。もう、あんな痛そうに泣いている顔なんて見たくない。  ああ、歌とか本でみかける「君を守る」って、何からどう守るんだろう、とは思っていたけれど、俺はいま、そう言いたくなっている。丹羽を守りたい。丹羽を傷つけるものから守りたい。  これって、恋愛感情なんだろうか。  初めてで、分からないことばかりだ。怖い、が先にたつけれど、新しい本を読み始めるときみたいに、少しわくわくもしている。  この彩りは、俺を変えていくんだろうか。 「あー……高良さん、もう、ちょっと、触っても、いい?」 「触る? ……っ、いや、待」 「シャワー、いく?」  そんな急に、まだ、軽く落とされるキスだけでも心臓が跳ねあがるっていうのに。 「待っ、もうちょっと、ゆっくり」 「あ、そうですね、オレがそう言ったんだ、くっそ、待ちます」 「そうしてくれ」 「じゃあ、代わりに、あの青い本、教えてくださいよ」 「それ、お前ずっと言ってるな、あの青い本ってなんのことだ?」  そこで俺は、「青のさきを読んでニヤついているところを見られていた」うえに、丹羽が勢いでバイトを始めたことを知ったわけだが、うん、丹羽って、怖いな。
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