丹羽

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 そこからはしばらく漫画の話になった。丹羽君はかなりしっかりストーリーを解釈しながら読むようで、広く浅くの俺が知らない情報なんかも教えてくれて、ちょっと面白い。コミックの担当は昼のスタッフだけれど、一度一緒にフェア台をやってもらっても面白いものになるかもしれない、なんてつい仕事モードになった。  そのうち頼んだものが来て、丹羽君はそれはもう美味しそうにサンマを食べている。 「意外だな、和食派なのか」 「っていうか、サンマ嫌いな日本人いないでしょ」 「それは暴論だ」 「意外っっていうなら、高良さんも意外。甘いもの好きとか。休憩中もコーヒーばっか飲んでるイメージだし。っていうか、まあ、お互いのことなんてほとんど知らないですよね、週二回、三時間しか顔合わせないし」 「バイト先のスタッフなんてそんなものだろう」 「そうですね、だからオレはもっと――」 「そうだ、ハードカバーと文庫だったらどっちがいい?」 「え」 「だから本読みたいんだろ、丹羽君にはまりそうなもの探すから。活字苦手なのは、なんで?」 「なんでって、なんでだろ」  丹羽君は眠くなるんです、と笑った。  慣れていないから、かなと思う。これだけ漫画読み込める丹羽君に想像力が乏しいとは思えないし、キャラクターに感情移入もしている。漫画のノベライズなら読んだこともあるってことだし、最初は目的が分かりやすいミステリーとかがいいか。キャラクター性が強くて読みやすいミステリーがいくつか頭に浮かぶ。 「じゃあ、何冊か貸すよ」 「え、ちゃんと買いますよ?」 「最初から買ったら、イマイチでも最後まで読まなきゃってしんどくなるかもしれないから、最初は貸すよ、気に入ったら、同じ作者のもの買ってみればいいんじゃないかな」 「なるほど。あ、じゃあ、お願いします」 「合わないなと思ったら、すぐ読むのやめていいからな。無理に読むとますます活字好きじゃなくなるだろ」  丹羽君は嬉しそうに頷いた。サンマも美味そうに食べている。感情を現すのが自然な感じで、好感が持てる。それに、もっと仕事できるようになりたいから活字読みたいなんて勉強熱心で偉い。週四回、一日三時間のバイトでそんな風に思えるなんてきっと真面目でいいやつなんだろう。これまであまり話したことなかったら、初めて知って、ちょっと嬉しい。  清算のとき、また新しいクーポンを貰ってしまって固まっていると、丹羽君は俺の顔を覗き込んで笑った。 「あ、来月はカボチャスイーツなんですね、また来るしかないですね」  クーポンの写真には可愛いカボチャスイーツのお化けが笑っている。かぼちゃプリンは好きだ。  しまった、クーポンスパイラルの罠にかかってしまいそうだ。
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