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こいをしらない
『好きだと言う言葉が喉でつかえている。これを吐き出せば濁流のように想いがあふれて止れなくなる。喉のつかえは「今」を守る最後の砦だ。分かっているのに、その砦はぎしぎしと音をたて光のない未来へとわたしを誘っている。それでもわたしは、進みたいのだ。砦を壊して。』
ページをめくりながら考える。
わからん。
いや、意味は分かる。
つまり、好きと言ったら壊す今があって、それは怖いけど、やっぱ壊すってこと、だと思う。
だが、その心境が分からん。
この小説の主人公は奥さんがいる男に惚れていて、気持ちを伝えたって未来に光はなくて、でも気持ちを伝えたいと思っている。
いや、やめとけ。自分で先はないって言ってるのに、なぜ進みたいと思うのだ。まるで理解できない。恋愛ってそんなに状況把握もできなくなるものなのだろうか。
わからん。なぜなら俺は恋をしたことがないからだ。女の子をカワイイと思う感情はあるが、それはどちらかというとキャラクターをカワイイと思う気持ちに似ていて、それ以上に発展することはない。というか、無かった、ずっと、これまで。そして、きっと、これからも。
二十八歳にもなると、もう気づいている。
きっと、俺には恋愛感情を抱く心が欠落しているのだ。この先もずっと恋を知らないままで、結婚もせず、一人で生きていくんだろう。本屋勤めの俺は給料も安いし家族を作る余裕もないんだし、それを不満とも不安とも思わないが、小説の主人公に感情移入できないのはまあまあ残念だ。
それでも「そういうものなんだろう」と思えば読み進められるし、それで本の面白さが損なわれることもない。例えば、今読んでいるミステリーにおいて、恋愛は彩りであって本筋ではない。
俺の人生には、その彩りが少し足りないだけで、本筋は変わらないんだ。ちょっと寂しさを抱えながら生きていく。
それでいい。それが、俺なんだから。
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