菜園生活

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善は急げということで一旦家に戻り、シャワーで体についた汚れをきれいに落とし、着替えてから車で40分位の所にある農業資材専門店に初めて行った。 駐車場には、たくさんの車が停まっている。 いつものように娘と手を繋いで入口から入っていくとたくさん野菜の苗が並んでいる。 いつもはホームセンターで苗を買っていたので、 (今度はここで買ってみよう) と思いながら、資材館と入口に書かれている建物の中に入っていく。 入るとすぐ野菜の種がずらっと並んでいる棚がいくつもある。 さらに進むと鍬やシャベル等が壁に立てかけられてきれいに並んでいる。 値段は高いものから安いものまである。 1つ手に取ってみる。 軽くて使いやすそうだ。 値段も安い方なので買うことにした。 長靴も値段は色々あるが、やはり安いものにした。 レジに持って行き、会計を済ませる。 この時買った長靴は、長い間使っていたが、破れてしまい2足目であるが、シャベルは今も活躍している。 次の休みまでは、野菜の雑誌を見ながら、今の時期から育てられる野菜を調べて、ピックアップし、 今までよく育てていたからナス 妻が好きだからエダマメ 納豆に入れるので葉ネギ と初めてやるのでこの3種類に決めた。 作業内容をメモしておき、簡単なスケジュールを組み、ゴールデンウィークに作業が終わるようにした。 スケジュール表を改めて見て、 (よし、やるぞ) と心の中で気合いを入れた。 休日、娘が起きる前に菜園へ。 前日に使いかけの石灰と先日買ったシャベルを車に積んでおいたので、静かに家を出ることが出来た。 菜園の駐車スペースに車を停めて、使う道具等を両手に持ち、区画に向かう。 まずは、区画を5等分にする作業を行なった。 北側からメジャーで測りながら、1メートル毎に土に指で印をつけて5等分に仕切る。 100均で買っておいた梱包用のヒモを東西方向の寸法にはさみで切り、前もって切っておいた棒にヒモの端をくくりつける。 土に印をつけておいた所に棒を刺して反対側の方にも刺す。 それを2回繰り返して、5等分することが出来た。 次に石灰を手でパラパラと野菜を育てる3区画にまいていく。 シャベルを手に取り、 「ザッ」 という音をたてて、刃先の半分位まで手だけの力で入った。 足で刃肩に力を入れて押し、土の表と裏面をひっくり返して石灰をすき込んでいく。 3区画同じことを繰り返していくと額に汗が滲んでくる。 終わって、水道で顔と手を洗うととてもすっきりした。 タオルで顔と手を拭き、携帯の時間を見るとそろそろ娘が目を覚ます時間である。 急いで持ってきた物を手に持ち、車に積んで家に戻った。 先週同様休日に娘の起きる前に菜園へ。 今回も使いかけの堆肥と化成肥料を前もって車に積んでおき、シャベルは面倒なのでトランクに入れっぱなしにしてある。 菜園の駐車スペースに車を停めて、シャベルと2つの肥料を持って区画に向かう。 ふと菜園に来るようになってから作業している人に会っていないことに気づいた。 (早い時間だからかな) (いつ来てるんだろう) と考えながら、他の区画を見ているとどこも立派な野菜が育っており、区画内は草むしりがしてあってとてもきれいだ。 区画に着き、シャベルを置いて、肥料の袋だけ持って、野菜を育てる区画にまいていき、シャベルを手に取り、すき込んでいく。 畝立て、マルチと雑誌に書いてあったが、 (このままでも大丈夫だろう) と省略した。 見た感じは大分菜園らしくなってきた。 (いよいよ来週は植えつけだな) そう思いながら、水道で手を洗い、家へと戻った。 休日前の仕事帰りに営業時間を調べたら仕事終わってからでも間に合いそうなので農業資材専門店に寄る。 駐車場に車を停めて、外に並んでいる苗の売り場に早足で向かう。 いつもはパッと見て、 (これでいいや) と苗を買っていたが、小さいコンテナに入って並んでいるナスの苗をじっくりと見る。 茎が太いもの 病害虫の跡が無いもの と雑誌に書いてあった苗の選び方をぶつぶつと小声で言いながら1本1本見ていた。 該当する苗を3個選び、段ボールで出来ている苗を入れる箱に入れた。 レジなか行きながら改めて選んだ苗を見てみたがいい感じである。 会計を済ませ、帰り道にある100均でエダマメ、葉ネギの種を買って家に戻った。 「ただいま」 ナスの苗の入った箱を持って玄関に入る。 「おかえりなさい」 と大きな声で娘が出迎えてくれる。 「あっ、ナスだ」 続けて娘は言った。 「よく覚えていたね」 「うん」 と娘はとてもうれしそうになった。 「あすかもナス植えに行く?」 「行くー」 と娘は大きな声で返事をした。 「明日菜園に行くよ」 と前日に娘に話すと、 「早く起きる」 と言っていたので、娘が起きてくるまで、 車に苗を入れて、リュックに水筒や種等を入れて準備して待っていた。 「おはよう」 といつもよりかなり早く娘は、あくびをしながら起きてきた。 「おはよう。よく早く起きたね」 と言うとうれしそうに笑いながら、顔を洗って洋服に着替え始めた。 リュックを車に積んでいると、 「用意できた」 と帽子を被り、長靴を履き、右手に小さいスコップを持って娘が外に出てきたので、車に乗せて菜園へと向かう。 菜園の駐車スペースには車が何台か停まっており、作業している人が見えた。 ナスの苗と小さいスコップを持ち、リュックを背負って、娘と手を繋いで区画へ向かう。 作業している年配の人が近くにいたので、 「おはようございます」 と挨拶すると、 「おはようございます」 と額の汗を拭きながら、笑顔で挨拶してくれた。 「パパのお手伝いするの?」 男の人は娘に話しかける。 「うん」 と娘は元気よく答えると、 「えらいねぇ」 と男の人に言われ、娘は笑顔でとても喜んでいた。 区画に着き、一旦全ての荷物を置いて、持ってきたメジャーで野菜を育てる区画に種まきと苗植えの間隔を測り、土に指で軽く穴を掘っていく。 娘が隣りでじっと僕のやる作業を見ていたので、 「あすか、穴掘ってくれる?」 と言うと、 「うん」 とうれしそうに返事したので、 「ここの列のちょっと掘った所に穴を掘ってちょうだい」 「分かった」 と娘は、小さいスコップで穴を掘り始めた。 その間ナスの苗を近くに持ってきて、種の袋を切っていく。 「出来たよ」 と娘が自信満々で言ったので、 「ありがとう」 と言うととてもうれしそうにしている。 「上手に出来たね。じゃあ、パパがナスの苗を入れていくから土をかけてくれる」 と言うと、 「分かった」 と真面目な顔で娘は答えた。 娘の掘ってくれた穴にポットから出したナスの苗を入れていく。 その後をすぐ娘が、掘って避けてあった土を小さなスコップでかけていく。 「終わったね。ありがとう」 と言うと満足そうな顔を娘はしている。 「よし、次は種まくからまた土かけてね」 と言うと、 「分かった」 と娘。 エダマメの種の袋を右手で傾けて左手に出す。 食べているエダマメのままなのでとてもびっくりした。 軽く穴を掘った所に3粒種をまき、娘が土をかける。 を繰り返していく。 続けて葉ネギも同じようにやっていく。 「あすか、本当にありがとう。助かったよ」 と言うと、娘は満足そうな顔をしていた。 「よし、次は水をやろう」 と水道に行き、ジョウロに水を入れ、種をまいた所と苗を植えた所に水をかけていく。 すーっと水が染み込んでいく。 水をやり終え、2人で水道でよく手を洗い、しばらく区画を見ていた。 「早く大きくなりますように」 と娘は土に向かって話しかけていた。 休日の用事がない時だけ菜園に行っている。 土が乾いていたら水やりをする。 ナスの丈は、植えた時から伸びており、エダマメと葉ネギは発芽した所もあれば、していない所もある。 草も小さいものが生えてきているが、 (まぁいいか) と後回しにしている。 そうこうしているうちに梅雨入りし、雨の日が多くなり、菜園から足が遠のいた。 梅雨の中休みで、朝から晴れている休日に菜園の様子を見に行く。 (もう大分大きくなったかな) と期待に胸を膨らませながら駐車スペースに車を停めて区画へ向かう。 区画を見て愕然とした。 一面草だらけでナスの枝がかろうじて見える。 「うそだろ」 と口に出てしまった。 しばらく呆然と見ていたが、気を取り直して野菜の区画の草をどんどん取っていく。 ナスの区画は、枝が見えるので避けながらむしることが出来たが、エダマメと葉ネギの区画は全く見えないので、どんどん取ってしまった結果草と一緒にせっかく育っていたものもむしってしまった。 そのためほとんどエダマメと葉ネギは残っていない。 (よく見てやればよかった) 草だらけのため動揺してしまい、冷静さを完全に失っていた。 むしった草をゴミの集積場に運びながら、 (後回しにせず小さいうちからきちんとやっておけばよかった) と落ち込んだ。 また植物の生育の早さと生命力のすごさを感じた。 (もうこんな思いはしたくないし、野菜達にもこんな目にあわせたくない) と強く思った。 1日おきに会社帰りに菜園に行くようになった。 休日の朝は必ず行っている。 野菜の生育状況を見て、草が生えてきたらこまめにむしっている。 そのかいあって区画は、草がほとんど無く、きれいな状態を保てていて、野菜の生育も順調である。 (そろそろナスとってもいいかな) と感じたので、会社帰りに菜園に寄る。 ハサミと袋を持って、区画に向かうとエダマメは白い花が咲き始め、葉ネギは丈が伸びてきている。 「よーし」 と掛け声をかけて、ナスの収穫を始める。 初めてプランターでナスを収穫した時にトゲがあることを知らず痛い思いをしたので、慎重にナスを持ち、茎の部分をカットしていく。 ずっしりと重みのあるナスが6個とれたので、水道で軽く洗って袋に入れる。 菜園での初収穫物を持って急いで家に戻る。 「ただいま」 と玄関に入ると、いつものように娘が、 「おかえりなさい」 と迎えてくれる。 「あすか、ナスとれたよ」 と手に持っていた袋を広げて、ナスを見せると、 「わー」 ととてもうれしそうな顔をしていた。 「ママ、ナスとれたよ」 と言って、台所にいる妻の所に走っていく。 靴を脱いでいると、 「おかえり」 と妻が玄関に来たので、 「ただいま。これね」 と言って袋を渡すと、 「たくさんとれたね」 と言って、妻は袋を受け取ると、 「明日はナスの肉詰めにしよう」 と言って、台所に戻っていった。 翌日のナスの肉詰めは、プランター栽培のものとは大きさが違うし、とても美味しかった。 娘も、 「おいしい」 と喜んでいたので苦労したかいがあった。 ナスは、大きくなったものをとり、葉ネギは丈が長くなってきたものを葉の部分だけカットする。 少しずつだが育てた野菜が食卓にのぼるようになってきた。 エダマメのさやが膨らんできたので、収穫するため休日に菜園に向かう。 区画にて早速収穫を始めたが、枝からさやをとるのがとても面倒だった。 全てやり終えて、ふと1つ見てみると小さな穴があいていたので、割ってみると小さい虫が入っている。 とてもびっくりし、 「わっ」 と大きな声が出てしまった。 他のものを見てみるとほとんど穴があいており、ただでさえ収穫が少なかったのにさらに減ってしまった。 水道で軽く洗って袋にしまい、駄目なものと枝や茎をゴミの集積場に捨てる。 がっつりしたまま家に戻り、 「ただいま」 と言って玄関に入ると、 「おかえり」 と妻と娘が迎えてくれたので、 「エダマメとれたけどほとんど駄目だった」 と言って、妻に袋を渡す。 「わーとれたんだ」 と言ってくれた娘の言葉が救いだった。 夕食時に早速妻が茹でてくれたエダマメを食べたが、すぐ無くなってしまった。 (ちゃんと管理しておけば) と反省しながら食べていたので味わえなかった。 (ただ植えておけば収穫できる) そういう考えはあった。 知識も無く始めた菜園だったので、野菜達に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 (きちんと勉強してたくさん収穫できるようにしよう) そう心の中で決めた。 反省の気持ちを忘れないうちにネットや本で基礎を勉強していった。 畝を立てておけば野菜の育てている場所がよく分かった。 マルチしておけば野菜を育てている場所だけでも 草は生えずに済んだ。 防虫ネットをしていればエダマメの虫の被害を防ぐことが出来た。 勉強していくうちに色々とこうしておけばよかったということが分かっていった。 あれからちょうど10年経った。 色々な野菜を育て、 収穫したら喜び 失敗したらへこみ の繰り返し。 どちらかと言うとへこんでいる方が多いかもしれない。 「さて、帰るかな」 と言って、区画を後にした。
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