86人が本棚に入れています
本棚に追加
思うわけないじゃん。
仕事最優先の男が途中で放り出して帰ってくるとかさ…。
『麻里、もういい?我慢できないんだけど』
え?何が?と、顔を上げて口を開くより先に、噛み付くように唇を奪われた。
後頭部と腰に回った手に誘導されて、あっという間に壁際に追い詰められる。
ざらりとした感触で掻き乱されて―――――…
「んっ……」
喉元から、意思とは無関係の声が漏れる。
後ろでパタンとドアが閉まる音がした。
息もできなくなるほど求められて、絡められて、熱を伝えきって、ゆっくりと離れていく―――――…。
黙ったまま、見つめ合う。
両手に包まれた頬が熱い。
蒼は切れ長の瞳をすっと細め、私の目尻をそっと指先で拭うと………、
『泣いてた?』
「……べつに、」
こういうの、すぐに気付くから嫌だ…。
否定したところで誤魔化せるはずもなく、口ごもると、どういうわけかニヤリと口角を上げて覗き込んでくるから、嫌な予感しかしない。
『なんで?一人で寂しかった〜?』
「や、莉乃を待ってただけだし…」
『ふ〜ん。泣くほど、俺が恋しくなっちゃったの?』
「いや、そこまでじゃ…」
『だよな。麻里って、俺のこと愛してるもんね』
「おい、話聞け」
最初のコメントを投稿しよう!