86人が本棚に入れています
本棚に追加
スーツのポケットに手を入れ、すっと小さな箱を取り出して。
それを開けると、私の前に差し出した。
「え……、まさか…」
『うん、そのまさか』
キラリと光るその石はこれからの言葉を予兆する。
『佐原麻里さん。俺と結婚してください』
キラキラした夜景とツリーをバックに、余裕たっぷりの、それでいて真剣な瞳が私を射抜くから――――――――…
視界はあっという間に滲んで、何も見えなくなってしまった。
すでに涙腺が崩壊してる。
こんなの唐突すぎるんだって…。
「…………はい」
声を振り絞って、小さな声で返事をするので精一杯。
『麻里ちゃん、結局泣いてんじゃん』
「だって……、これのために仕事放り出して帰って来たの?」
『もちろんそうだよ』
「信じられない…。私のことなんかなかったじゃん。いっつも仕事が一番のくせに…」
『アホか。ずっと麻里が一番だわ』
「何処がよ!?今までドタキャンばっかじゃない!それに、私…、また浮気してるのかと思って…」
『またって言うなよ!もうしないって言ったじゃん、一応…。それにあれは未遂だし…』
「そんな話してないのよ!馬鹿!!だいたい、ビデオ通話に出ろ!アホ!!」
『悪い悪い。けど、出たら帰って来てるのがバレんじゃん』
サプライズだからいいんだろ。記憶に残したいじゃんな?…なんて、人の気も知らないで、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
最初のコメントを投稿しよう!