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『悪い。イヴ、出張入った』
大して悪びれもしない、たった一言で、私のクリスマス・イヴは酷く寂しいものになろうとしていた。
「そうなんだ…。どこに?」
『名古屋』
「日帰り?それとも…」
『今のところ、一泊。ただし、場合によっては次の日も厳しいかも…』
「そうですか…」
はいはい、なるほど。今年は“寂しいクリスマス”確定ですか…。
来週末は恋人になってからの初めてのクリスマス。
土日だし、一緒にプチ旅行にでも行こうかな…とか、密かにわくわくしていたのに、まさかの彼氏の出張とかついてない。
でも、仕方ないよね…。仕事だもん。
頭では分かっていても、心から納得するのは難しい。
だって、この男はドタキャンの常習犯なんだから…。
今年に入って付き合いはじめた、同期の中條蒼。
営業部の若手チーフで、なかなかの実力派。人望も厚い。だけど、これは仕事上に限って。
そんなこの男の入社一年目の印象は、とにかくイケメン。でも、チャラそう。そして、ちょっと馬鹿でクズっぽい。
実際のところ、それは寸分の狂いもなく、正しくて。
はっきり言って、口を開けば、くだらないことしか言わないし、息をするように女を口説くスタイルには辟易する。
だから、付き合うことになって、『麻里ちゃんだけに決まってんじゃん♡』とか、お決まりのセリフを言われたところで、全くもって信用できないし、私に落ち着く理由も分からない。
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