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心の中でそう思うものの、エベルレイに覆す権力はない。ついでに言えば、セシリアの言った通りこれは決定事項なのだ。どれだけ王宮に申し立てをしたところで、受け入れてもらえるわけがない。
それに、エベルレイのわがままをそこまで通してもらうわけにはいかない。通るわけがないだろうが。
(……本当に、最悪だわ)
今年は嫌な年になりそうだ。
そう思って「はぁ」と露骨にため息をついていれば、事務室の扉がノックされる。
……誰だろうか?
もしかして、セシリアが忘れものか伝え忘れをしたのかもしれない。
そう思ってエベルレイが「どうぞ」と返事をすれば、礼儀正しい「失礼いたします」という声が聞こえてきた。……その声は、男性のものだった。
しかも、聞いたことがない声。
それに気が付き、エベルレイが頬を引きつらせていれば、事務室の扉が開く。
そこにいたのは――美しい、いや、精悍な顔立ちの青年。
鋭い青色の目と、乱雑に切られた青色の髪。男らしい身体つき。少し見える肌には傷が見え隠れしている。
一言で言えば、そう。
(ザ・騎士……)
もう見るからに騎士だった。
そんなことを思ってエベルレイが彼のことを凝視していれば、彼は「今度の異動で団長になります、アリク・ウォルジーです」と言って頭を下げてくる。
……どうやら、彼はあいさつに来たらしい。
なんとまぁご丁寧なことだろうか。
(……貴族の団長なんだから、威張っていればいいのに)
エベルレイが心の中で可愛くないことを思っていれば、彼は「……エベルレイ・セヴィニー……さん、ですよね?」とエベルレイに問いかけてくる。
……どうして彼はただの事務官の名前なんて知っているんだ。
(それに、何となく嫌な予感が――)
身体を襲うのは何とも言えない寒気。それにおののいていれば、アリクは「……会いたかった、です」と言ってその精悍な顔を嬉しそうに緩めた。
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