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アリクの顔立ちは精悍で少々強面ではあるものの、大層な美形である。
そんな彼が表情を緩めれば、大体の女性ならば赤面するはずだ。
エベルレイが冷静に分析していれば、彼はエベルレイに一歩近づいてくる。……その所為で、エベルレイは椅子ごと後ずさってしまった。
「俺……ずっと、貴女のことが好きだったんです」
頬をうっすらと赤く染め、アリクはそういう。
しかし、エベルレイからすれば意味が分からない。そもそも、エベルレイとアリクは初対面のはずである。エベルレイはアリクのことなど知りもしないし、見覚えもない。こんな美形、一度見たら忘れないだろうから忘れているということも考えにくい。
「あ、あの。私とアリク……様は、今まで対面したことがありましたでしょうか……?」
恐る恐るそう問いかければ、アリクは露骨に眉を下げた。……あ、これは対面したことがある奴だな。
心の中でエベルレイはそう思うものの、やはり思い出せない。
(それに、これくらいで心を乱されていたら『絶対零度』の名が廃るわ……!)
別にエベルレイにその呼び名に執着はない。ただ、そう思って自分の気を確かにしていただけである。
「わ、忘れているのならば……」
けれど、彼のその寂しそうな表情を見ていると胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。
だからこそ、慌ててフォローをすれば、アリクは「いえ、覚えていなくて当然ですよ」と言って肩をすくめる。
……覚えていなくて当然。それはつまり、彼は自分がエベルレイの記憶に残っていなくても当たり前だと、思っているのだ。
(……もしかして、昔は地味だったとか?)
一瞬そう思ったが、ありえないと思う。だって、アリクはこんなにも美形なのだ。地味だったとしても、将来有望だなぁと思うくらいはあり得ると思うのに。……それさえも、ない。
「エベルレイさん。……ちょっと混乱するような貴女も大層可愛いですが、話を進めてもよろしいでしょうか?」
混乱するエベルレイを他所に、アリクはそんなことを告げてくる。
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