まるで忠誠のキスのような

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「俺は、貴女が好きです。それこそ、貴女のために騎士団長になろうと、思ったくらいなんです」 「……それって」  ――どういう意味、ですか?  そう問いかけようかと思ったが、問いかけることは出来なかった。  顔を上げたアリクが苦しそうな表情をしていたからだ。演技ではない。心の底から苦しそうな表情を浮かべる彼に、そんな問いかけなど出来るわけがなかった。  けれど、すぐに彼はにっこりとした笑みを浮かべると「俺、エベルレイさんのこと本気ですから」と告げてくる。まるで、誤魔化すかのような言葉だった。 「とりあえず、俺、これからまだ別のところに挨拶があるので、一旦失礼しますね」 「……え、えぇ」 「大好きです、エベルレイさん」  アリクはそれだけの言葉を残すと、エベルレイの手を取りその甲にちゅっと口づけを落とす。  まるで騎士がお姫様にするかのように。忠誠の証のような口づけに、エベルレイの顔に一気に熱が溜まっていく。 (な、な、なっ!)  一人心の中で慌てふためくエベルレイを他所に、アリクは「失礼いたします」と言ってきれいなお辞儀をした後事務室を出て行ってしまう。  そんな彼の後姿を眺めながら、エベルレイは椅子の背もたれに全体重を預けた。 (あ、あのお方、一体どういうつもり……!?)  どうして彼があんな態度を取るのかはこれっぽっちも分からない。少なくとも、エベルレイと過去に会ったことがあることだけは確実だ。  なのに、どう頑張っても彼らしき人の記憶がない。……もしかして、記憶にないほど幼い頃の話?  ……あり得る。
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