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緩やかな風が吹く、心地よい日の午後。
ちょうど昼休憩を終えたエベルレイ・セヴィニーは自身の執務机に戻るために廊下を歩いていた。
ここはリネル王国。自然が豊かな大国である以上に、四方を他国に囲まれた面倒な立地に位置している国。
そのため、リネル王国にはたくさんの戦闘部隊が配置してある。そのうちの一つが、騎士団。
騎士団にも王立と私立があり、王立騎士団所属の騎士は世にいう公務員である。
そんな王立騎士団の専属事務官として、エベルレイは働いていた。
(月末だし、そろそろまとめて来そうな予感がするわね……)
心の中でそう思い、カレンダーを眺める。本日は月末に丁度入った頃合いだ。
この頃になると、騎士たちが領収書をもって駆け込んでくるのだ。
事務官と言っても、仕事は様々。書類仕事から経理まで。騎士団の事務作業をすべて担うのが事務官の仕事。
エベルレイは事務官として王宮に配属されていたものの、配置移動で二年前に騎士団の所属になった。ちなみに、騎士団所属の事務官とはスーパーエリートである。それこそ、事務官がこぞって憧れる場所と言っても過言ではない。
……仕事は特に変わりないが。いや、むしろ王宮勤めの事務官よりもハードかもしれない。いいのは給金くらいだ。
エベルレイが時計の針がカチカチと動くのを見ていると、不意に事務室の扉が開く。
そして、一人の若い騎士が顔をのぞかせた。
「あの、エベルレイさん。この領収書なんですけれど……」
どうやら、彼は経費の相談に来たようだ。
そう思いつつ、エベルレイは「裏に名前だけ書いておいてください。後で私がチェックしますので」と淡々と言葉を返す。
それから、手元の資料を引き寄せる。
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