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セシリアが出て行ったのを確認し、エベルレイは「ふぅ」と息を吐く。
彼女がエベルレイのことを心配してああ言ってくれているというのは、嫌というほど伝わってくる。わかっている。けれど、それを受け入れられるかは別問題なのだ。
エベルレイが努力をすれば、男性は嫌がる。エベルレイが頑張れば、男性はプレッシャーを感じる。
そして、気がつけば離れていく。それは植え付けられたことだとわかっていても、なかなか脳は理解してくれない。
(……本当に、バカなのは私ね)
心の中でそう思い、エベルレイは仕事に戻ることにした。
そうすれば、事務室の扉が三回規則正しくノックされた。
このノックの仕方は、間違いない。そう思いエベルレイは「……どうぞ」と小さくも届きそうな声で告げた。
「エベルレイさん」
そこにいたのは、エベルレイの予想通りアリクだった。彼はニコニコとした笑みを浮かべ、エベルレイに「ちょっと、仕事のことで相談があるんですが」と言って近づいてくる。
かつかつと足音を立ててエベルレイの方に近づいてくる彼の姿は――何処となく、歪だった。
「……あぁ、どうぞ」
視線を仕事道具に向けたままそう言えば、アリクはふとエベルレイの背後に立つ。
それから――エベルレイの身体を背後からぎゅっと抱きしめてきた。
それに驚いてエベルレイが目を大きく見開けば、彼は「エベルレイさん」と耳元で囁いてくる。
「こっち、向いてくださいよ。……俺は、貴女の顔が見たいんですけれど」
しょんぼりとしたような色を声は孕んでいる。でも、何とも言えなかった。
だからこそ、プイっと顔を背ければアリクはあきらめたのか「……つれないですね」と言ってエベルレイの前に資料を置く。
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