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(……ふわぁ)
大きく伸びをして、事務室から窓の外を見つめる。窓の外では騎士たちが各々訓練を行っているようであり、エベルレイのことなど気にも留めない。
今日はパトロールに出ている者以外は自主練の予定だったはず。ここで事務官として働いている以上、騎士たちの行動は嫌でも把握してしまう。……把握するつもりなど、これっぽっちもないのに。
そう思いつつ、一度換気をしようと窓の方に近づいた。バッと窓を開けて、カーテンを閉める。
そうすれば、騎士たちの話し声が聞こえてくる。どうやらこの話し声は休憩中の騎士たちのものらしい。
「それにしても、エベルレイさんってさぁ。愛想がないよな」
しかし、最悪な話題だな。そんなことを思いながらエベルレイが眉間にしわを寄せていれば、ほかの騎士が「そうだよな」と相槌を打つ。
その会話を聞いて舌打ちしてしまいそうな気持ちをねじ伏せ、エベルレイは書類作りに戻ることにした。午前中の間にある程度は作ってあるとはいえ、一度時間をおいて確認することも大切だと思っている。
「女性の事務官だったら、こう……運命の出逢い、みたいなの期待してたんだけれどなぁ」
「エベルレイさんって、美人だけれどとっつきにくいよ。さすがは『難攻不落』『絶対零度』だ」
「え、何その呼び名っ!」
ゲラゲラと笑いながら騎士たちがそんな会話を交わす。彼らの声から推測するに、最近入ってきた新人の騎士らしい。……鈍っているな。騎士団長にしごくようにと命令しておくか。疲れ果てたら、こんな軽口をたたく余裕などなくなるだろうし。
心の中でエベルレイはそう思いつつ、書類に判を押す。
(男なんてろくでもない生き物だわ。……それくらい、ずっと知っていたじゃない)
ぐっと下唇をかみしめながらエベルレイはそう思う。
エベルレイがこんなにも男性嫌いを拗らせたのには訳がある。あれは……そうだ。今からちょうど六年前のことだ。
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