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六年前。当時のエベルレイには婚約者がいた。
彼は名門子爵家の嫡男であり、エベルレイとは幼馴染の関係だった。
そんな彼に仄かな恋心を抱いていたエベルレイは、彼に尽くした。彼の隣に立っても見劣りしないようにと自らを着飾り、花嫁修業に精を出した。
……それが、婚約破棄のきっかけになるなんて思いもせずに。
「エベルレイ。悪いが、俺はキミと結婚したくないと思っているんだ」
ある日、婚約者に呼び出された。そして、エベルレイはそんな言葉を告げられたのだ。
驚き戸惑い、エベルレイは彼を問い詰めた。そうすれば、彼は苦しそうな表情で言ったのだ。
――エベルレイの行いのすべてが、プレッシャーとなっていたと。
彼曰く、エベルレイが頑張れば頑張るほど、彼は苦しみを覚えていたと。そして、彼はそんな自分を癒してくれる存在を見つけたと。
どうやら、彼はエベルレイという婚約者がいながらも、別の女性に入れ込んでいたらしい。
「正直、キミは重いんだ。俺はキミのような重い女と結婚したくない。……婚約の破棄を、告げさせてもらう」
彼はエベルレイを糾弾するような目で、そう告げてきた。
フラれた当初、エベルレイは泣きじゃくった。自分が今まで何のために頑張ってきたかが、わからなくなってしまったのだ。
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