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……人事異動。
もうそんな時期なのか。そう思いエベルレイが「忘れていました」とそのままの表情で言えば、セシリアはくすっと笑ったかと思うと「貴女、本当に正直ね」と言って肩をすくめる。
「まぁ、私たちには関係ないから当然かもしれないけれど」
騎士と事務官の人事異動の時期は違う。だから、エベルレイが覚えていないのもある意味当然だったりする。
そんなことを思い出しながらエベルレイが「そうですよね」と言ってほっと息を吐きだせば、セシリアは「実は、今年は団長職の異動が予定されているわ」と言って魔法で紙を取り出す。
その紙を受け取れば、軽い注意事項。それから異動の人間の名前が綴られていた。
「今の特殊部隊の団長が出世するのに合わせて、新しい団長を持ってくるそうよ」
セシリアは何でもない風にそう言うが、エベルレイからすれば寝耳に水である。
今の特殊部隊の団長は三十代後半の男性であり、数少ないエベルレイが嫌悪感を持たずに話せる男性だったのだ。
というのも、彼は妻子を大切にしており、毎日惚気てくるような人だったのだ。
「……えぇ」
「露骨に嫌そうな顔をしないでくれる? これは決定事項よ」
肩をすくめながらセシリアがそう言うものだから、エベルレイも納得せざる終えない。
そう思い「わかったわ」と言葉を返せば、セシリアは「それでよろしい」と言ってうんうんと頷く。
「で、今度騎士団の特殊部隊の団長になるのは……二十一歳の騎士だって」
「……えぇ!?」
セシリアのその言葉にエベルレイは柄にもなく大きな声を上げてしまう。
そんなエベルレイの態度を予想していたらしく、セシリアは「アリク・ウォルジーっていう騎士よ」という。
(ウォルジーって……伯爵家の家名じゃない)
つまり、新しい団長は貴族なのか。……若い男性というだけでも嫌なのに、まさかの伯爵家の令息。
面倒なことになるのは目に見えている。
「露骨に嫌そうな顔をしているけれど、もう一度言うわ。これは決定事項よ」
厳しい声でセシリアがそう言う。
なので、エベルレイは「……わ、わかっているわ」とツンとしまして声を上げる。……完全な強がりだった。
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