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「ないない。そんなの絶対ないって。あたしさ、大体見ればわかるんだ。ほら見てよあのしゅっとした後ろ姿。何にも不満なんてなくて、今が最高に幸せって顔しちゃって!」
「言い過ぎだってば。絶対それ、思い込み入ってるよ」
笑い飛ばしつつ、私も視界の端で高杉君を盗み見る。生徒会の後輩に囲まれて、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべていた。
以前に比べると、間違いなく高杉君は変わった。こうして何も事情を知らない同級生の目にも、変わったと悟られる程度には。
その源泉とも言える、あのにじみ出る無双感は、恋の絶頂にある人間特有のものである事を私はよく知っている。想いを寄せる相手と初めて結ばれ、仲が深まり、この世の中に叶わない夢なんて何もないと無条件に思い込みたくなる時期。ついに巡り会えた運命の恋人が一緒なら、どんな事だって乗り越えていけると信じて疑わない無敵モード。
とすると……そろそろ潮時なのかもしれない。
思わず緩みそうになる口元を、唇を噛んで引き締める。
高杉君のあの姿は、私が望み、目指して来た目標に他ならない。
そこにたどり着いた以上、私たちの関係は終わらせるべき時期に差し掛かっているのだ。
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