塗って潰す

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     ◇  高杉君との関係が始まったのは、ほんの数ヶ月前からだ。 「高杉君、あのね、ちょっと勉強教えてもらってもいい?」  それまでほとんどしゃべった事もない私からの申し出に、高杉君は眼鏡がずり落ちるぐらい動揺を露わにした。  そう。その頃の高杉君はまだ眼鏡を掛けていた。真面目さと野暮ったさがにじみ出るメタルフレームの眼鏡だった。 「う、うん。いいけど、それで、どこを……」  普段から女の子と話しているところなんて滅多に見ない高杉君は、決して私と目を合わせようとしなかった。広げられたテキストの上で視線を泳がせるも、口元にはまんざらでもなさそうな照れ笑いが浮かんでいた。  私は確信した。  この人なら簡単に落とせる、と。
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