恋人初日(こいびとしょにち)

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「……颯介」  蕩けた心地で、うっとりと名前を呼べば、男前の笑顔が応える。 「続き、帰ってからしような?」  コクリと頷きながら、期待している。彼の唇の甘さを知ってしまった。酔わされる心地良さを覚えてしまった。だから――きっと、俺は昨夜と違う。きっと、俺も彼を求めてしまうだろう。  早鐘が止まらなくて俯くと、すぐ目の前の地面に種の骸が散っていた。 「あ。ヒマワリ……」 「ははっ。全部食われてるなぁ」  落としたヒマワリの種が、綺麗に殻になっていた。先ほどのリスの他に、仲間がもう1匹増えて、2匹でムグムグしている。 「いいよ。残りも食べなよ」  カプセルの中に残っていた数粒を、殻の辺りに落とす。リス達は争うように種を掴むと、既に膨らんだ頰を更に大きく変形させた。食いしん坊の彼らを見守る内に、火照った頰も胸のドキドキも収まってくれた。 「楽しかったね」 「そうだな……可愛いかった」  なにか含みのある彼の言葉は、スルーして。「シマリス公園」を出ると、キッズアスレチックがあった。単に展望台だけではなく、色んな施設があることに驚いた。 「この先にさ、スライダーがあるんだけど、乗ってみないか?」 「スライダー?」  プールなんかにあるウォータースライダーが頭に浮かぶ。でもここは陸上で、水なんかないし。 「大人でも、割と面白いんだ」  少し散策路を歩くと、派手な(のぼり)がはためいていて、7、8人が並んでいる。どうやら行列が出来るほど人気のアクティビティらしい。 「乗ってみる?」  多分、彼のオススメなんだろう。誘ってくれたんだから試してみよう、という気になった。 「うん」 「じゃ、並んでて」  そう言うと、彼は券売機でチケットを買ってきた。 「あのさ、今日ずっと奢ってもらってばかりじゃん。気持ちは嬉しいけど、奢られっぱなしは、やだよ」  年下でも、貧しい訳でもない。これからも付き合っていくなら、俺達は対等な関係でいたい。 「そうか……。じゃあ、夕飯ご馳走してくれる?」 「ん、りょーかい」  ふふっ、と笑めば、彼もクシャリと照れたような笑顔を返してくれた。
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